223.ヒカリモノ
ラミュロスをコテージに送り返した後、俺の糸先はすっかり動きを止めていた。
「当たらないね」
「大物が釣れちまったからな。気長に待つとしようや」
ルアーも改良して挑んでいるので、前回や前々回とは釣り方も異なっている。
だから当たらなくて当然だ。
……この釣り方になれるまで、数十分くらいはこのままかもな。
と思いながら俺は竿を動かしていた。
そして待つこと数分、
「お? 来たな」
予想していたよりも早くアタリが来た。
これも当たり前と言えば当たり前なのだが、さっきよりも引きは弱い。
だから普通の魚か何かだろう、と思ってある意味安心して、ルアーを引き上げた。
すると、その先についていたのは、
「……なんだこれ」
鮮やかなピンク色をした、四角い物体だった。
大きさはおよそ六十センチほどと大きいが、
「また魚じゃないな。というか生物でもないぞ」
「ん。そうだね。なんだか宝石みたい」
確かに見ようによっては宝石に見える。
色鮮やかだし、ほんのりとした光沢もある。
ただ、釣り上げてよく見て気付いたのだが、
「あれ? 動いているな、これ」
「本当だね」
四角い物体は、俺の作ったルアーにガジガジとかじりついていた。
見れば四角い体躯の中央に、牙のようなものも見える。
ヘスティも首を傾げているから、この石っぽい生物の正体は分からないんだろうし。
一体何なんだろうな、と思っていると、
「おはようダイチ殿ー。遅れてすまないが参加させて貰ってもいいだろうかー」
砂浜の方から、ディアネイアがやってきた。
目をこすっているという事は寝起きだろうか。ともあれ、いい所に来てくれた。
「参加するのは構わんよ。それでディアネイア、コレ、何か分かるか?」
そう言ってディアネイアにルアーに噛みつく四角い物体を見せた。
すると、先ほどまで眠たげだったディアネイアの目が大きく開いた。
「それが今日の釣果か……って、ダイチ殿? こ、これは、魔石貝、だぞ」
「貝? これ、貝なのか」
「う、うむ。水に溶け込んだ魔力を凝縮した結果、最上級の魔石に等しい成分の外皮を持っているんだ」
「なるほど」
随分と面白い生態をしているな。
成分を凝縮して体に蓄えるとは貝っぽいが、見た目は完全に石だしな。
そんなふうに俺が魔石貝を眺めていると、
「あ」
不意にヘスティが声を上げた。
「どうしたヘスティ」
「我、素材屋でこんな貝殻の破片を見たことがある。とても昔で、ショーケースに飾られていたけれど」
「素材屋で? そりゃまたなんでだ?」
「うむ。それはだな、ダイチ殿。魔石貝は、芳醇な魔力の溶けた水の中でしか生まれないうえに、とても見つけづらく、養殖なども出来ない存在でな。年単位で小さいものが一個上がれば良い方なものなんだ」
俺の疑問に答えたのは、目をぱっちりと開けて、やや興奮した様な息を上げるディアネイアだった。
「これも貴重なのか」
「ああ、しかもその大きさは、正直、見たことがないレベルの大物だ。外皮はもちろん、内部に含まれている魔石部分も上等だろうな」
内部にも魔石が入ってるのか。
この貝は半分くらい石でできているみたいだな。
「良いこと知れたわ。ああ、そういや、ディアネイア。こいつ――」
「ち、因みに魔石貝は、外皮をはがせば食べれるぞ? 外皮は鉱物でも内部には普通の肉があるし」
「――まだ何も言っていないんだけど、情報ありがとう」
二人からの説明を受けながら魔石貝を見ていただけなんだけどな。
いつの間にか食う事にされていたよ。
確かに、これも食えるなら食うつもりだったけどさ。
そこまで食い意地を張った覚えがないので、この扱いには疑問を覚えるぞ。
「まあ、うん。良い獲物が取れたってことで、これはゴーレム生簀に入れておくわ。んで釣り続行だが……ほら、ディアネイア。アンタもやるんだろ?」
「あ、ああ。よろしく頼む」
三日目も三日目で面白い獲物が取れたようで。
俺は姫と竜王と共に、朝釣りを再開していく。
腰痛発生により、次回より中一日から三日間隔での更新になります。
申し訳ありませんがよろしくお願いします……。





