222.第一投の結果
朝日が昇るよりも前の時刻。
俺はヘスティと共に、砂浜近くの岩場に座って釣竿を構えていた。
……さて、改良したてだけど、どんなもんかな。
昨日の釣り竿よりも糸も長めにして、自作していたリールも大きくした。
更にルアーも重めに作ったので、岩場などの浅瀬ならば底釣りも出来る。
一投してみたが感覚もいい。
……うん、今日はこのまま行けるかな。
竿の感触を確かめつつ釣り糸を垂らした俺は、サクラが用意してくれた水筒からお茶を出す。
程良くぬるめのお茶だ。
「ほれ、ヘスティ」
「ん、ありがとう」
それをヘスティと共に飲みながら、釣り糸が垂れる湖面を見る。
「あー、このゆったりした時間、いいなあ」
「そうだねえ」
朝だから空気はとても澄んでいる上に、水辺特有の涼しげな風も吹いている。
そこにさざ波の音なども加わり、とてもリラックスできていた。
眠ったりしなくても体と心が休まっていく感じだ。
……太陽が完全に上ると暑いから、味わえない感覚だよなあ。
そんな事を思いつつ、釣り糸を揺らしていた。すると、
「お、今日の初ヒット来たな」
糸の方に、ググッと強めの引きが来た。
竿の先が一気に曲がる。
結構な大物だ。
「ん、おめでとう」
「まだ早いぞ。釣り上げてからだ」
ここで気を抜いて逃がしたら悲しいからな。
竿の曲がり方も大きいし、
……ここは、ゆっくりいくか。
だから俺はその糸を慎重に慎重に巻き上げていった。
数秒もすれば、湖面に掛かった獲物のシルエットが見えてきた。
「重そうだし、一気に行くか。――せえのっ……!」
だから俺は一息に竿を立て、獲物を引きつける。
その結果、釣り上がったものは、
「や、やあ、ダイチさん。ヘスティ。おはよう」
「……一日目と同じく魚じゃなくて竜が釣れたな」
ラミュロスが釣れた。
というか釣り糸に絡まっていた。
「なんで湖で糸に引っ掛かってんだラミュロス。アンタ、コテージで寝てたんじゃないのか?」
言うと、ラミュロスは糸に絡まったままえへへ、と恥ずかしそうに笑った。
「砂浜で眠るのが気持ちよくてー。いつの間にか波にさらわれちゃったみたいでね。水中でも呼吸できるから良いかって思って寝てたんだけど、なんだか目の前に凄い魔力の糸が在るなあって思って手を出したら絡まっちゃったんだよね」
言われてみれば手と腰のあたりで糸が絡みついているから、そのまま引き上がったんだろうな。
釣れた理由は分かったよ。
だが、色々と無頓着すぎるぞ。
「うう、御免なさいー」
「謝る必要はないけどよ……ってか酷い格好だな」
糸が引っ掛かって水着がずれまくっている。
もはやポロリとかそうレベルじゃないぞ。
「み、水着のままだったから、ほどけやすかったみたい。……だ、だから、ちょ、ちょっと恥ずかしいかな」
ラミュロスは今更顔を赤くしている。
「恥ずかしがるくらいなら初めからそんな格好で寝るなっての。……糸を解くから。寝るならコテージに戻って寝ろ」
「う、うん、そーするねー」
そうして糸から解放されたラミュロスは、そそくさとコテージに向かって歩いていった。
「なんというか、ゴメンね? 我の同類が迷惑かけて」
その後ろ姿を見て、ヘスティは肩を落としながら言った。
彼女にとっても、ラミュロスの釣り上げは予想外だったようだ。
「まあうん。気にするな」
三日目の初っ端からとんでもないものを釣り上げてしまったが、とりあえず問題は解決した。
気を取り直して、このまま朝釣りは続行していこう。





