221.竜王流の起床法
早寝をしてから数時間後。
俺は右手から伝わる温かさと共に目を覚ました。
「あ、起きた?」
すると、俺の目の前には、ヘスティの顔があった。
どうやら俺の事を起こしてくれたらしい。
「……おう、お陰さまでな」
少し頭の奥が重いが、悪い寝ざめでは無い。
「おはよう……、っていうには、早いかな」
「いや、おはようでいいぞ、ヘスティ。でも、この起こし方はなんなんだ?」
ヘスティは俺の腕にギュッと抱きついていた。
随分と奇妙な起こし方だが、何か意味があるんだろうかと思って尋ねてみると、
「あ……いつもの癖」
「癖って、これがか?」
「竜王は叩いて起こしたりすると、反射で竜化をするときがある。それで起こすときはこうしないと、建物が危ないから、いつもやっているから、つい」
ああ、そうか。ラミュロスなどをいつも起こしているって言っていたけれど、相手はサイズのデカイ竜王だもんな。
うっかり竜形態になったら、寝ている部屋はもちろん、建物までぶっ壊しかねない。
だったらその辺も気を使かうのも当然か、なんて考えていると、
「ん……」
ヘスティはしゅんと身をちぢこめた。
「……いやだったら、御免なさい」
「ああ、違う違う。嫌ではないし、悪くない起こし方だ。けれど、ちょっと驚いただけだ」
何せ寝て起きたら、いきなり柔らかい体が腕に触れているんだから。
幾らへスティがぺたんこ胸だと言っても、女の子特有のやわらかさはあるのだから、ビックリせざるを得ない。
しかも、薄い寝間着で俺の体に抱き着いてきているものだから、何かと思ってしまった。
「ただまあ、起こしてくれてありがとな。お陰で目も覚めてきた」
ヘスティの体に触れたものあるけれど、寝起きで会話したお陰で頭が一気に冴えてきた。もうぼーっとすることはないだろう。
だから改めて礼を言うと、頬を掻いて照れくさそうに笑う。
「……こんなことで褒められたのは初めて。でも、気にしないで。我も早く起きてしまっただけだから」
「早く起きたって、――よくもまあ目覚ましも掛けずに起きれるな」
窓の外を見ればまだ暗い。
聞こえてくるのも、音も静かな波と風の音くらいだ。
他のコテージからも、酒飲み騒ぎは終わったのか、物音は一切聞こえてこない。
「こんな刺激の少ない空間で、きっちり早起きが出来るとは凄いもんだ」
そう言うと、ヘスティは俺の顔を見ながら、首を横に振った。
「ん、普段の我だと、もうちょっと寝てた。でも、アナタと一緒に寝てると回復がすごく早まるから。一気に回復して眠気が吹っ飛んでしまった」
「え? そんな効果があるのか」
俺、そんな事は全然知らなかったんだけど。
「ん、我も、今日初めて実感した。竜王クラスでも、数時間眠ればオッケーな回復量だから。多分、アナタの傍にいれば竜王の睡眠時間はかなり短くて済む、ね」
「それはそれで、目覚まし時計になった気分で変な感じだな……」
というか俺自身にそんな早起き効果が付与されている感覚がないんだけど。
「いや、アナタの回復量は既に莫大だから、早起き効果とか付いたら、怖すぎるからね? 今でも十分すぎるくらい早いのに」
「そんなにか?」
「そんなに。我が起こした時、既に魔力満タンだったし。いくら昨日の魔力使用量が少ないからといっても、異常な事だよ?」
そんな首を傾げながら言われても、眠っている時の事なんて俺にはどうしようもないんだよな。
「ん、まあ、我も眠っている時のアナタをまじまじ見たのは、初めてだから。ちょっと興味深く思った」
「あー……考えてみればヘスティに起こされるのは初めてだな」
今まで昼寝とかも一緒にしてきたけれど、殆んど俺が先に起きるか、同時かだったし。
ともすると、今日はかなり珍しい起き方をしたんだな。
「まあ、いい経験になった。そして、目も完全に覚めたわ」
数分も喋れば、頭は一気に覚醒してくれた。
そして、起きぬけにテーブルを見れば、温かそうなお茶が入ったカップが並んでいる。更に、
「主様、ヘスティちゃん。おはようございます。朝食、出来てますよ」
コテージのドアを開けて、サクラが朝食の乗ったお盆を抱えてやってきた。
朝食の準備もバッチリなようだ。
「サクラもありがとうよ。――んじゃ、飯食って出発するか、ヘスティ」
「ん、了解」
そして、寝起きの腹を朝食で満たした俺たちは、朝釣りの場所へと向かっていった。
●宣伝です
あとがきの方では書いていなかったのでこちらでも。
「俺の家が魔力スポットだった件」の2巻が全国書店で発売中です!
台風のせいで仕事が大変な事になり、報告が遅れてしまい申し訳ありません。
今後とも、どうぞよろしくお願いします。





