219.夜食と改良の方向性
アテナたちが使っているコテージに向かうと、室内には大量の料理とお菓子が並んでいた。
「……なんだこりゃ」
「あ、ダイチおにーさん。お帰りー! お腹空いているなら、どうぞ食べていって! 私と一緒に暴飲暴食しようよ!」
どうやら、サクラに料理を教えられたアテナが気合を入れて大量に作ったらしい。
そして大量に食っているようだ。
……まあ、散歩して軽く小腹も好いているからな。
余らせてももったいないしな、と誘われるがままに夜食をつまむ。
そして、先ほど考えた通り、釣り具の改良作業をしていると、
「こんばんわ、ダイチさん」
「おう、マナリルか。こんばんわ」
口をもにゅもにゅと動かしているマナリルが隣に来た。
「今やっているのは釣り具の改良?」
「ああ。夜食のお菓子を食いながらの作業だけどな。マナリル……随分とガッツリ食っているな?」
マナリルの手には焼かれた肉が積まれた皿がある。
夜食にしては重い気もするぞ。
「これは夜の湖の中に潜るから、その為の栄養補給をしているのよ」
「夜に潜るって、またなんで?」
街灯があるとはいえ、湖の中は真っ暗に近い。
そこの方まで行けば魔石の光で明るいだろうが、わざわざ夜に潜る意味はあるんだろうか。
「うん。なんだか湖の生き物が巨大化していたり、生態系が変わっているみたいだからね。夜のうちに観察して、魔力の淀みとかがあれば軽く歌って浄化しちゃおうと思って。ほら、そっちの方が皆も安心して湖で遊べるでしょう?」
「相変わらずの気遣いっぷりがすごいな、マナリルは」
「えへへ……ダイチさんに褒められちゃった」
マナリルは口元をへにゃっとさせながら笑う。
こういう所を見ていると、本当に巷で人気なアイドルであることを忘れそうになるな。
「というか、マナリルの歌ってカトラクタ対策だけじゃなくて、色々な効果を出せるんだな」
「ええ、そうよ。魔力のよどみを浄化する歌や、お魚を集めて釣りやすくする歌とかもあるわね」
「随分とピンポイントな歌だな」
「食糧確保の時に使っていたのよ。こんど、ダイチさんが釣りをしている横で歌ってみる?」
「ちょっと魅力的だが、マナリルの歌はマナリルの歌で、釣りは釣りで楽しみたいからな。今度普通に聞かせてくれ」
何が何でも釣果が欲しくて釣りをしているわけじゃないしな。
「そう言ってもらえると、歌を歌うものとしては嬉しいわ。――しかし、ダイチさん、さっきから糸を編んでいるけれど、それは網を作っているのかしら?」
「ああ、釣竿の改良だけじゃ足りないと思ってな」
俺はマナリルと話しながら、掬い上げる為のタモ網を作っていた。
そこまで目の細かいものではなく、大物が獲れた時にひっかけられる程度の網ではあるが、あれば便利だろう。
なんて思いながら編んでいたのだが、
「あの、ダイチさん……。この糸、ラミュロスのうろこから作っているのよね?」
「おう、そうだけど?」
「だとすると、この細さで編みこむと、切れ味が鋭すぎて使いにくいと思うわよ?」
「切れ味?」
「えっと……その糸を触らさせても、いいかしら?」
そう言ってマナリル、俺が作った糸を片手で持った。
「ダイチさんは、そっちを持っていてね」
マナリルは糸を軽く引っ張り、ピンッと張り詰めさせる。
その糸に、マナリルはもう一方の手で持っていた肉の一片を落とした。すると、
「うん、やっぱり切れるわね」
バターをナイフできる様な感じで、肉がスッと両断された。
「ダイチさんの力が強すぎて、糸も強すぎるから。魔力防護のないお肉だとこうなっちゃうから。この湖の魚は比較的魔力を持っている方だから耐えられるのもいるだろうけど、普通の釣り場では使わない方がいいかもしれないわ」
「……そうみたいだな」
どうやら、この糸を普通の釣り場で使うのは、止めた方が良さそうだ。釣った傍から魚がぶ
つ切りになってしまう。
というか今回も、糸をあまり細く作り過ぎると肉を切るほど鋭くなってしまうので分厚く作ろう。
その上で、とりあえず、この湖限定の装備としておこうかな。
なんにしても、改良の方向性が決まって良かったよ。





