216.似たもの姉妹
夕日が沈み、外灯の光がまぶしく光り始めた頃。
俺とディアネイアがコテージに戻ると、
「ダイチおにーさーん! お姉さまー! 助けて―!!」
砂浜でアテナが、白い蛇に追い回されていた。
「……鬼ごっこで遊んでるのか」
「ち、違うよ! モンスターだよ! ほら、あそこ見てよ――!」
アテナは外灯に照らされる湖のほうを指さした。
そこには、白い蛇を出してうねうねと暴れている、円筒形の生物がいた。
「というか、ナマコか、これ」
その姿は口から内臓を吐き出すナマコにそっくりだった。
「ひゃあああ! こ、こないで、触らないでー」
だが、普通のナマコの内臓はこんな風に人を追いかけたりはしないだろう。
そもそも、内臓に蛇のような目や、牙はついていないはずだ。
「ディアネイア。これも、この湖の生き物なのか」
だから隣で唖然とした表情を浮かべているディアネイアに尋ねてみた。
「あ、ああ、これはスネイク・トレパングだな。異常に巨大化しているが……この湖に原生している生物だとも」
「へー、でもこんなデカイのがいたら目立つと思うんだが。どこから引っ張ってきたんだ?」
「ダンジョンから帰る途中に付いてきたのー! って、水着の上を取らないで―!」
白い蛇の牙にひっかけられるようにして、アテナの水着が持っていかれる。
どうやらこのナマコだか蛇だかわからない生物も、水着の防護をぶち破ってくるくらいの力はあるみたいだな。
「ってか、カレンはどこいったんだ?」
「ダンジョン内で調べ物があるからって、私だけ帰ってきたんだよ。そしたら、これも来ちゃって――ひゃあっ! そ、そこ掴まないで! んうう、ヌルヌルいやあー!!」
今度は水着だけじゃなく、体も捕まったようだ。
「昨日はディアネイアで今日はアテナとは。なんというか姉妹そろって触手に好かれてるな」
「す、好かれてるわけではないぞ! と、というか、なんとかしなければ……!」
「ああ、まあ、ちょっとキモいから、俺も長く見たくないんだよな」
目の前にいるのはナマコとウナギが混じって大きくなったような感じだ。
それでいて、口から白い蛇のような触手が出てくる。
割とグロテスクなので、さっさとどうにかしてしまいたいのだが、
「ディアネイア、これって倒してもいい生物か? 保護されてたりとか、倒すと毒をばらまくとかなら放置するけど」
「い、いや、特にそんなことはないので倒してしまっても問題ないが、こんなに触手を出して暴れる奴をどうやって――」
「んー、とりあえず、杭で目打ちして動きとめるわ」
確かに白くてうねる触手はたくさんいるが、大本はウナギみたいな生物だ。
ウナギを捌く要領でやってみよう。
俺はサンドゴーレムとウッドゴーレムを作り出し、
「サンドゴーレムはうねりを止めてくれ」
命令は即座に実行に移された。
まずはサンドゴーレムがナマコに接近し、うねる体をぎゅっと抑え込んだ。
それでもまだじたばたと頭を暴れさせるので、
「ウッドゴーレム、飛び蹴りで突き刺され」
その頭に、ウッドゴーレムが突撃する。
助走付きで勢いよく飛び上がったウッドゴーレムは、
「--!」
杭のように変化した足で、ナマコの頭を貫いた。そしてそのままナマコの頭を地面に縫いとめる。
それだけで、ナマコの暴れと、触手の動きは止まった。
「お、意外と楽に止められたな」
「い、いや、これを楽と評せるのはおかしいと思うぞ……。蹴りの衝撃で湖に小さなクレーターができてるし……」
そう言われてもほとんどゴーレムがやってくれたことだし、本当に楽なのだから仕方ないだろう。それに、アテナも触手から解放されたし、これでいいだろう。
「うう、ありがとー、ダイチおにーさん……。水着がなくなったけど、傷物にならずにすんだよ」
「そりゃどうも」
上下の水着を取られてへたり込んでいるので、ちょっとだけ無事ではないようだが、ケガがないのであれば良かった。
「しかし、このナマコどうするかな? 一応目打ちして動きは止めたけど、まだ生きてるみたいだし……そもそもコイツ食えるのか、ディアネイア?」
駄目元で聞いてみると、ディアネイアはおずおずと頷きを返してきた。
「あ、ああ。食べられるというか、これも高級な食材なのだ。湖の底でたまに取れるものだから、希少価値も高いものでな」
「料理法とか何かあったりするのか?」
「ええと、かば焼きで食べるのが定番だと思うぞ」
「そうなのか……」
やっぱりウナギっぽく食べれるのか、コイツ。
正直食指は誘われないんだけれども、まあ、折角取ったんだしな。
魚は見た目によらず美味い事も多いし、歴とした食材だというんだ。
ここは一度、チャレンジしてみるかね。
というわけで、さばいてからコテージの調理場に持ち込んでみることにしたよ。





