―side アテナ― 浮上してくるモノ
アテナは、ダンジョンの中で座って息を吐いていた。
「はあー、はあー。と、とりあえず、既定数は倒したよ、カレンー」
彼女の周辺には青色の魔石がいくつも転がっている。
それらは湖のダンジョンのモンスターを倒した結果、変化したものだ。
「ふむ、きっちり二十体、討伐できましたね。魔力の配分も出来ていますし、威力も十分な物を使い続けられて、素晴らしいですよ、アテナ王女」
「うん。魔法の威力は、ダイチおにーさんのを見続けてきたからね。どうにか出来たよー」
見続けたからと言って真似できるものではないのだが、参考にするくらいはできる。
……ダイチおにーさんに触れられた時、力が流れ込む感覚とかも分かったし。
お陰で今日の修行は、問題なく乗り切ることが出来た。
あとでお礼を言わなきゃなあ、とアテナが思っていると、
「よし、では、アテナ王女。修行は終わりですので、先にコテージに戻って休んでいてください」
カレンがそんな事を言ってきた。
「先にって、カレンは戻らないの?」
「はい。私は少し湖の中での調査があるので。軽く行ってから後を追いますよ」
「そっか。じゃあ、お言葉に甘えて先に戻るね」
「ええ、そうしてくださいな」
そうしてカレンはほほ笑んだあと、しかしすぐに真面目な顔になった。
「――あ、でも、アテナ王女。生態反応が周辺に残っているのは、分かっていますね?」
「そこも大丈夫。湖の底にいる水棲生物の中には、強いのが沢山いるからね。だからテレポートで上に戻るよ」
そう言ってアテナが懐から取りだしたのは、テレポートのスクロールだ。
……私はまだお姉さまと違って、テレポートを自在に使う事は出来ないからなあ。
だからこういうモノを使う必要がある。
値が張る道具だが、安全に行動する為には必要な経費だろうとも思う。
「でも、やっぱりお姉さまみたいに、使いこなせるようになりたいなあ。このスクロール、使うとすごく光って目がチカチカしちゃうし」
「テレポートはかなりの技術と知識を要求しますからね。自分が一度訪れた空間の認識と把握、変位の感知が絶対に必要になりますから。あれを普通に使いこなせるディアネイアは、私が見てきた人間の中ではトップレベルだと思いますよ」
カレンの言葉に、アテナはどこか誇らしい気持ちになりながら、頷いた。
「そうだよね。……ふふ、ダイチおにーさんを目指して努力してるお姉さまみたいに、私も頑張らなきゃなって思えるよ」
「その意気ですよ。……では、私は先に向かいますので、アテナ王女もお気をつけて」
「うん、カレンも頑張ってね」
そうしてカレンと分かれたアテナは、改めてスクロールを握りしめる。
「よおし、私も今日は帰って、ちょっと休んだら練習をしなきゃね! ――《テレポートスクロール・発動》っと」
スクロールの中に装填された魔法は、アテナの言葉によって即座に発動した。
彼女の体は一気に光に包まれた。そして次の瞬間、
「――っぷは、テレポート成功っと」
アテナの体は、コテージ近くの湖面に浮かんでいた。
「やっぱりスクロールだと、正確な移動はできないなあ」
細かく移動したいのであれば、自分で正確に座標を計算して、しっかり行使する必要があるんだろう。
それを考えると、いつまでもスクロールだよりになるのは良くない。
「よッし。コテージに戻ったら練習しようっと」
今日の予定を更新しながら、アテナは湖をバチャバチャと泳いでコテージの方へと向かっていく。
そんな時だ。
「――あれ? 後ろから変な魔力の反応が付いてきてる……?」
自分の周囲に張り巡らせた感知に引っ掛かった生物がいた。
……なんだろう?
もしかしたらテレポートの魔力に引かれて付いてきちゃったのかな、と思いながら、アテナは振り向いた。すると目に入ったのは、
「……はい?」
ダンジョンの方でも散々倒した、白くて太い蛇のような触手の大群だった。





