214.一緒に御食事
ウサギリーダー、もといレベッカに促されるまま、俺とディアネイアはウサギの店に入った。
……歓楽街で初めて入る店が知り合いってのも変な話だけどな。
ただ、面白そうだ、とも思いながら俺は店内を見る。
店の中には座り心地の良さそうなソファと、テーブルがいくつも並んでいた。
「ささ、こちらへどうぞ。お二人とも」
その中の一つに、俺とディアネイアは並んで座る。
「プロシアの方にある店とは少し違う構成だな。レベッカ。この店は、一号店と同じサービスを提供する感じなのか?」
レベッカはディアネイアとは反対側の、俺の隣に座りながら言ってきた。
「ああ、いえ。こちらの営業方法はとても健全でして。基本的に一緒にソファに座ってお喋りしたり、一緒にお酒を飲んだり食事するだけのお店になっております。精力を貰う都合上、こちらからお触りすることはありますが」
「それは……ある意味健全だな……」
更に言えば、儲かりそうでもある。
彼女たち戦闘ウサギは、夜の営業が得意だ。
プロシアの屈強な男を骨抜きにするような技術力も持っているし。
歓楽街にはある意味適した人材だろう。
「うむ、彼女たちのポテンシャルはすごいぞ。オープンして数日で、この歓楽街の経済がかなり活性化したからな。周辺に王城が経営している店舗があるが、売り上げがおよそ二倍に跳ね上がったんだぞ」
「へー、マジか。すげえな」
「ふふ、私たちの取り柄ですから。……とはいえ、これも場所を提供して下さったディアネイア様と、関係を作ってくださったご主人様のお陰なんですよ」
「いや、そこは謙遜する必要は無いだろ。明らかにアンタ達の技術で店を盛り上げたんだしさ」
そう言ったらレベッカは少し驚いた顔をしてから、ほほ笑んだ。
「ありがとうございます。しかし、本人を前にして言う事ではないかもしれませんが、本当に貴方様はいい人です。ありがとうございます……」
「別にそんな礼は良いっての」
「はい、ですからお礼ではなくお食事でも。――よろしければ当店のメニューを味わっていきませんか?」
レベッカは俺に微笑みかけながらメニューを差し出してきた。
確かに昼飯を食べてから結構時間がたっているな。
時計を見ればもう三時くらいになるし
「よし、それじゃあ、ちょっと一緒に食べていくか。ディアネイア、時間をもらっていいか?」
聞くと、ディアネイアは力強く頷いた。
「あ、ああ、もちろんだとも。一緒に、二人で軽食としよう!」
「ふふ、そうですね。ではお二人とも、ごゆっくり、メニューから好きな物を選んでくださいな。私が直々に用意させていただきます」
そうして、俺とディアネイアは二人で、ウサギの店を満喫していった。
●
店の奥の厨房に入ったレベッカは、背丈の小さな戦闘ウサギから声を掛けられていた。
「あ、あの、れ、レベッカ様。あの魔力の凄い人は、以前お話されていた方ですか?」
彼女の視線の先にいるのは、テーブルでディアネイアと談笑しているダイチだ。
「ええ、あの方が私たちを助けてくれたご主人様です」
「そ、そうだったのですか。あの方が……。見れば見るほど、強い力を感じます」
小さな戦闘ウサギは身を振るわせながらも、彼から目を離さない。
彼女は、森の集落から直接この店に来たから、ダイチとはここが初対面になった。だからあの力を前に緊張しているのだろう、とレベッカは思った。
ただ、それと同時に、憧れの色が彼女の瞳にあった。
その気持ちはわかる。
なにせ、自分も彼の傍で話している時は、そんな目をしていたのだから。
「……あの方のお陰で私たちの生活が安定したのですよね……。少しでもお役に立ちたいなあ」
「その気持ちがあるなら、大丈夫ですよ。私たちは私たちなりに、あの人に全身全霊を持って尽くせるように頑張りましょう」
「はい! 了解です!」
「では手始めに……軽食を作ってしまいましょうか」
そして戦闘ウサギたちは忙しそうに店の中で動いていく。





