213.歓楽街でのお知り合い
騎士団の合宿所を後にした俺たちが次に訪れたのは様々な商店が並ぶ通りだった。
「ここは、繁華街ってやつか?」
「ああ、私たちが使っている所からはかなり離れている場所でな。ただまあ、夜の方が賑やかだから、歓楽街と言った方が良いかもしれないな」
「へえ、夜の方が人が多いのか」
商店の数に対して出歩いている人がやけに少ないのはそのせいか。
一応、レストランやバーらしき場所には人が集まっているようだけれども。
「……って、俺、ここにきて大丈夫なのか? さっきも騎士たちになんか反応されてたけどさ」
「ああ、大丈夫だとも。ここはプロシアや武装都市にいる高レベルの冒険者や商人たちしか立ち寄れない場所になっているからな。今のダイチ殿のコーティングがあれば、卒倒するような人はいないさ」
卒倒するかしないかの基準で言われても、安心していいのか微妙な感じになるんだがな。
彼女的には心配いらないとのことだし、自然体でいさせてもらうつもりだけどさ。
「明らかに俺を見る目線がおかしいんだが」
特にバーにいる魔女帽子をかぶった女性などが、俺の事を見ながら両手を組んで祈ってくるんだけど。
「ああ、あれはプロシアの魔法研究者だから気にしないでくれ。貴方は、彼女らのようなプロシアの人間にとっては憧れの存在なんだから。街を何度も救ってくれた英雄としても、な」
「救おうとして救ってるわけじゃないから、憧れられてもどうしようもないんだけどな」
害意や悪意は無さそうだから良いんだけどさ。
「ああ、そう言ってもらえると助かるよ。――っと、ダイチ殿。ここが紹介したかった場所の一つだ」
言いながら、ディアネイアは通りの中にある店の前に止まった。
その店構えはどこかで見た事のあるもので、
「ここは、戦闘ウサギの店、か?」
ウサギ耳とウサギ尻尾のマークがついた看板が掲げられている酒場がそこにあった。
なんで、戦闘ウサギの店がこんな所に、と思っていると、
「店の前からほとばしってくる魔力の感じからして、もしやと思っていましたが……やはり我がご主人様でしたか……!」
店の方からウサ耳とウサ尻尾を生やした女性が出てきた。
頭には王冠のような飾りをつけているその顔には見覚えがある。
「アンタ……ウサギリーダーか」
「はい、レベッカと申します。顔を覚えて頂けて光栄です! そして、よくお越しになってくださいました!」
レベッカというらしいウサギリーダーはぺこっと頭を下げてきた。
そして彼女の背後を見れば、やはり見覚えのある戦闘ウサギたちの顔が見えた。
どうやら俺の知り合いの戦闘ウサギたちで間違いないらしい。
「ここはアンタらの二号店なのか?」
「はい、ご主人様のお陰で稼ぎが溜まりましたので。こちらの場所をディアネイア様に紹介して頂いたのですよ」
「あー、だからディアネイアが紹介したいって言っていたのか」
「うむ、つい最近オープンさせたということでな。ダイチ殿にも報告しておきたいと思ったのだ。貴方は彼女たちを救った張本人でもあるし」
「だから救った覚えはないんだっての」
俺はただ店という場所を貸しただけにすぎないんだから。
「というかご主人様って、俺、アンタらの主人になった覚えは無いんだけど?」
いつの間にそんな呼び方をするようになったんだ。
「いえ、もう私たちウサギ族にとっては、貴方様への恩を重ね過ぎているので。お金も住処も、安全も頂いてばかりで、もはや恩人様と呼ぶだけでは足りないと思いまして。だったらいっそご主人様として、出会った時には誠心誠意尽くさせていただこうと思ったのですよ」
あー、なるほど。
何となくわかったよ。
……人狼たちもそうだったけど、放っておくとあの森の連中は考えがエスカレートしていくんだったな。
人狼は途中で釘をさしてほどほどで止まったけれど。
戦闘ウサギには釘を刺したりしなかったっけな。
「……まあ、その、特に仕える必要は無いからな?」
「はい、了解です、ご主人様!」
「了解ですー!」
後ろのウサギたちと軽くハモりながら言ってきた。
これに関しても特に害は無いだろうから放っておくのが一番なのかもしれないな。
……戦闘ウサギたちのような子からご主人様呼ばわりされると、なんだか奇妙な気分に陥るけれども、まあいいや。
俺は、これまで通り気軽に接することにしよう。





