212.騎士団とお付き合い
膝をついた若手騎士たちの一部が立ち上がることが出来たのは、ダイチ達が去ってから数十秒経ってからだった。
「く……だ、大地の主の力、す、凄かったな」
「あ、ああ……俺の足腰が、こんなにもプレッシャーに弱いとは思わなかったぜ」
そんなふうに若手が話す中、年配の騎士は手を打ち鳴らしながら声を張り上げる。
「さあ、クールタイムは終了だ。まず、未だに起き上がれないものを医療班の所へ行くように!」
彼の指示に従って、先ほどまで休め姿勢でいた騎士たちは動きだす。
砂浜の上で震えて立ち上がれない騎士たちを担いで、医療班の方へ向かっていく。
それを見届けた年配の騎士は、若手騎士たちに目線を移した。
「そしてダイチ様を前にして膝をついたのは、俺と共に砂浜ダッシュ百本だ! せめて、あの人を前にして立ってられるようにならんと、話にならんぞ!」
その言葉に若手騎士たちは息をのむ。
確かにこれからも、彼がまた訪問する事も考えられるのだ。
ならば、その時に毎回倒れているわけにはいかない。
「さきほど感じた巨大な力。それが俺たちが目指すべき場所だ。今回は幸いな事に、合宿開始直後に自覚することが出来て良かったな、お前ら」
年配の騎士は言葉を続けていく。
「いいか、お前ら。この合宿は楽しんでもいい……というかむしろ、存分に楽しむべき場所だ。だが、楽しむ以上に、自分の持つ体力と気力を練り上げる場所でもある! ――それを理解しろ」
「オイッス!」
「よろしい。それでは、ダッシュスタートだ!」
若手騎士たちは先輩騎士の後を追って、砂浜を走り始めていく。
「あの人を、目指す、か。大変な目標だな」
「ああ、けれどよ。頑張り甲斐のある目標だぜ」
「違いねえ……よし、俺たちもやるか!」
そして数分もしないうちに合宿所前の砂浜には、無数のダッシュ跡が刻み込まれていくのであった。
●
騎士団長と軽く話をしながら、俺は酒やら食料やらを受け取っていた。
「こちらが騎士団の醸造所で作られた特性酒で、こちらがその醸造で使われた果物を再利用した菓子類となります」
「おう、ありがとう……」
ただ、今回も箱単位で大量に渡されていた。
箱には《プロシア騎士団醸造所》との刻印がされている。この騎士団はどこぞの修道院みたいに醸造所を持っているんだな。
「ええ。毎年毎年、醸造所部門から追加で送られてくるので、どうぞ持っていってください」
と進められるがままに貰っていったら、箱レベルでの貰いモノになった。
沢山もらえるのは嬉しいから貰っておくけれどもさ。
「ダイチ殿。これらは一旦テレポートで送っておこうか? このままビーチ周りを巡るわけにもいかんし」
「ああ、いや、その必要はないぞ。これはゴーレムに持っていってもらうから。――立ち上がれ、サンドゴーレム」
俺は砂浜の一部を利用し、サンドゴーレムを作り上げる。
背中に背負子をつけた特注のものだ。その背負子部分に箱を積み上げ、
「それじゃ、サンドゴーレム。輸送を頼む」
言った瞬間、サンドゴーレムは砂浜を滑るように移動し、コテージの方に向かって行った。
「ほ、本当に素早く動いていくな」
「ああ、砂浜の上だとあいつらが一番早いんだよな」
もうサンドゴーレムの背中が小さく見えている。
それくらい砂素材のゴーレムは素早い。
砂浜の輸送役としては大変役に立っている。
土の上や森の方ではどんな事になるのか試してないので分からないが、素早く滑らかに動いてくれるならそれはそれで助かるんだよな。
庭の配置バリエーションも増えるし。
「ともあれ、これで移動できるだろ?」
「あ、ああ、ありがとう。では、少し待ってくれ。テレポートの座標を計算するから」
ディアネイアはそう言うと、俺達から少し離れた場所で目を瞑った。
そのまま数秒待っていると、
「ダイチ様。毎回お世話になっておりますが、今回も姫さまをよろしくお願いします」
前にいた騎士団長がぺこりと頭を下げてきた。
「おう。といっても今回、世話になっているのは俺の方だけどな」
「いえいえ……ダイチ様と共におられる姫様はとても楽しそうなので。……親密にお相手して頂けるだけで、とても有難いのですよ。ダイチ様なら私も信用できますので」
騎士団長はディアネイアを優しげな視線で見た後、俺の目をまっすぐ見ながらながらそう言ってきた。
「……親か、保護者みたいなことを言うんだな、アンタ」
「はは、よく言われますよ。姫様とは子供のころからの付き合いですので、どうしてもそうなってしまいますな」
「なんつーか、良い関係なんだな、ディアネイアとアンタは」
そうして俺と騎士団長が苦笑しあっていると
「ダイチ殿――。次の場所に移る準備が整ったぞ――!」
手をぶんぶんふりながら、ディアネイアが声を掛けてきた。
「……確かに、楽しそうだな」
「でしょう? ともあれ、よろしくお願いします」
「おう、了解したよ」
そんな軽い受け答えの後、俺はディアネイアの元に向かっていった。





