207.酒の引き換え券
アッシュの先導によって俺が辿り着いたのはプライベートビーチから、かなり遠く離れた森林地帯だった。
「お、リーダーお帰り。それと、覚えのある超でかい力を感じると思ったら、やっぱり大地の主サンと一緒だったのか」
そこには、シャイニングヘッドの連中数人が、巨大なテントの前に車座になって、たむろしていた。
「よう、アンタらも久しぶり。というかコーティングしている筈なんだが、分かるんだな」
「ヒャッハー、旦那のコーティング、めっちゃ強いんで。俺達とか戦闘系の仕事に付いている奴は分かりますよ」
アッシュは言いながら、テントの方に向かって歩く。
「ここに寝泊まりしてるのか?」
聞くとシャイニングヘッドの面々は頷いた。
「ええ、武装都市から色々と食糧を買い込んで、ここでドンチャンやっとります。姫さんからは砂浜の方を使っていいって言われたんですが、俺たちにはこっちの方が性に合うんで」
「ヒャッハー、武装都市は、割と食材豊富なんすよ? 料理の腕前を持っている奴がそこまでいないんで、プロシアには一歩譲っちゃあいますがね。っと、旦那、これが武装都市の銘酒っす」
そしてテントの中からアッシュが持ってきたのは、一抱えほどの木箱だ。
その中には酒瓶がぎっしり並んでいる。
「え、箱ごと貰っていいのか」
「構いませんよ。酒ならまだまだたんまり買い込んでるんで」
アッシュはそう言ってテントの中にある積み重なった木箱を見せてきた。
本当に大量の酒を仕入れてきたらしいな。
それならば有難くもらうが、
……貰いっ放しというのもあれだ。
何かしら俺から渡すものは無いだろうか、と思っていると、
「ヒャッハー、旦那。今になって気付いたけど、そっちのゴーレムから毛色の違う魔力を感じるんだが。何か特殊な装備をしたりするんすか?」
アッシュが、俺の背後に付いてきたゴーレムを見ながら、そんな事を言ってきた。
「いや、してないけど、毛色の違う魔力?」
俺は首を傾げながら、アッシュが視線を向けているゴーレムを見て確かめる。すると、
「あ、もしかしてこれが原因か?」
七十センチほどの魚が、ゴーレムの背中にひっついていた
銀色に光る金属のように堅い魚――シルバーガードだ。
というか凹凸の部分にエラが刺さり、引っ掛かって取れなくなっているようだ。
「そういや、底の方に棲んでいるってディアネイアも言っていたっけな」
先ほど潜ったときに、ゴーレムにスレ掛かりしたんだろう。
……ゴーレムは自立駆動だから全く気付かなかったな。
そう思いながら俺は魚を取り外し、アッシュに見せた。
「毛色の違う魔力ってこいつから出ていたりする?」
「うっす――って、旦那。まさかそれ、シルバーガードっすか!?」
「ああ、知ってるのか」
「ひ、ひゃっは、勿論、普通に最高級魚っすからね。しかも一般市場には殆んど出回らないものっすよ!」
食えるってことを、知っているならちょうどいいな。
「なら、美味い魚だし、酒の礼に持っていってくれ」
そこそこ身も大きいから、この人数でも全員がつまむくらいはできるだろう。
「え……? いや、でも、この大きさなら一匹ン十万ゴルドはするし、そもそも易々と掛からないような魚っすよ!?」
「へえ、そうなのか。でも昨日食ったから別にかまわないよ」
「き、昨日も……? や、やっぱり旦那はハンパねえな。それじゃあ、有難く頂戴しやす!」
アッシュはそう言うと、シルバーガードを手に取ろうとした。
その時、俺は不意に、先日の経験を思い出す。
「あ、因みに外皮が金属なみ堅いけど、調理は出来そうか」
言った瞬間、アッシュの動きが固まった。
「ヒャッハー……あの、俺は鉄を切るくらいは出来るんですが、料理レベルで繊細に鉄を切ったことは、ないんすけど。お前らは、出来るか?」
シャイニングヘッドのメンバーにも聞くが、彼らは首を横に振った。
どうやら鉄の表皮を持つ魚を調理出来そうな人材はいないようだ。
「あの、旦那はどうやって調理したんでしょうか?」
「普通に三枚におろしたぞ」
「き、金属並みの堅さがあるのに、やれたんすか?」
「おう。まあ今回も、ついでだし、三枚に捌いてから渡すわ」
この前捌いて、堅さは理解したしな。
エアゴーレムに持たせていた素材で、どうにかできるだろう。
「う、うっす。お手数掛けます」
「気にするな。先に美味いものをもらった礼なんだから」
そうして、さばいた魚と引き換えに、シャイニングヘッド達から箱単位で酒を受け取った。
大量にあるし、ビーチの皆と飲むことにしよう。





