21.教えてもらった型を破る
今日も昼間にヘスティが尋ねてきた。
なので、今日も知識を取りこむことになった。
今日のヘスティは地図ではなく、真っ白な杖を持っていた。
先端はとがっており、刀子のような形状の杖だ。
「ん」
そのつやつやした綺麗な杖を、俺に向けて差し出してくる。
触った感じ、とてもがっしりしている。
赤い宝石みたいな石で装飾もしてあって、かなり高そうなものだ。
「えっと……くれるのか?」
「ん、竜王の骨の杖。魔法の触媒になる」
「魔法の触媒、か。俺が教わった限りだと、あんまり必要ないみたいだけど、意味があるのか?」
サクラに聞いた限りでは、俺のイメージで魔法は発動するそうだし、触媒の使い道というのが良く分からない。
「んー、なら、装備してるだけでも、いいかな。殴れるし」
「おい、いきなり物理の話にいくな」
「冗談。ちゃんと意味がある」
表情は薄いながらも、くすっと、ヘスティは笑った。
ヘスティは冗談を言うタイプには見えないのに、結構茶目っ気があるようだ。
しかし、良かった。
いきなり竜の骨で相手を殴ればいい、とか言われたらどうしようかと思った。
「ん、そんな事はもう言わない。これからは魔法の話。……アナタはイメージして、魔力を使っている。この前のゴーレムとか、そんな感じだった」
そういえば、彼女の前でゴーレムを作ろうとしていたことがあったな。そこから見抜くとは、流石は幼女でも旅人。観察眼が鋭い。
「イメージ魔法、とても便利。とても、多様。――でも、とても、燃費が悪くて、消耗する。経験、ない?」
「あー……確かに。眠くなる事は多いな」
昼から夜まで魔法を使い続けると、大体、十二時前には御就寝だ。
気絶したように気持ちよく落ちれる。
これでも慣れた方で、使い始めた当初は、早寝遅起き状態が何日も続いたっけな。
「うん……イメージで魔法を使っているのに、半日持つのは、大分、異常だけど。それでも、眠くなるのは不便。だから、魔法鍵を作るのを、お勧めする」
「スペルキー?」
「魔法を使う時に、この言葉を言う、というもの。これを作っておくと、頭に直接、魔法の配線が行えるから、思考の負担も減る」
見てて、とヘスティは、片手を虚空に掲げる。
そして、落ち葉に視線と杖を向けると、
「燃える」
一言呟いた。途端に、落ち葉が燃え始めた。
「おお、すげえな!」
「まだ、ある。――爆発」
今度は落ち葉が、ポンッと軽い音を立てて爆発した。
「こんな風に、あらかじめ、言葉と現象をセットしておくと、使いやすい。――魔力は相当、使うけれど、触媒を利用する分、イメージ魔法よりはマシ」
なるほどなあ。
頭の中にショートカットキーを作るようなものか。
一々イメージすることなく、現象に言葉を合わせておく。
よし、やってみるか。
「ヘスティ、コツとかあるか?」
「コツ? ん……簡単。貴方が知っている単語を、知ってる現象に当てはめて」
「なるほど」
「あと……はい、これ、腰にさしておいて。それだけでも使えるから」
「おっ、ありがとう」
ヘスティから杖を受け取って、チャレンジだ。
「じゃあ、――ウッドゴーレム!」
いつものようにゴーレムの形をイメージするのではなく、いきなり完成形を頭に浮かべ、そして単語を組み合わせた。すると、
「――おお、出来た」
目の前のリンゴ木が、ゴーレムに変化した。
「凄い。一発成功」
パチパチと拍手してくれるヘスティ。
ちょっと嬉しいな。ただ、それと同じくらい、
「なんか物足りないというか……これ、もっと単純に出来るか」
これではいつもと同じことを、ちょっと早くしただけにすぎない。
だから、もう少し、やりようがある気がする。たとえば――
「ウッドゴーレム×五」
ゴーレム五体の完成と言葉を組み合わせた。すると、
「おお、……やっぱり出来た!」
ウッドゴーレムが生成された。
一気に五体もだ。
しかも、疲れない!
眠くもならないし腹も減らない。
これはすごい。
「燃費がいいな、この魔法鍵って!」
喜んでヘスティの方に振りかえると、彼女は先日のように頭を抱えていた。
「アレ? また頭痛か?」
「ん……そういう使い方してる人、初めて見たから」
「え? こういう事が出来るから、便利なんだろう」
ヘスティの説明からすると、イメージのショートカットという効果が大きいということだったろうに。
だがヘスティは首を横にブンブン振った。
「普通はそんな多くセッティングしたら、魔力が足りなくなる。だから普通は、最低限の数、最低限の効果を魔法鍵にしている」
「そういうものなのか? ヘスティだっていろいろやっているのに」
爆発とか、燃やすとかさ。
「我は、……慣れてるし。多少、他の技術も応用してるから」
へスティは見た目によらず芸達者なようだ。
このハイスペック幼女、侮れねえ。
「……しかし、本当にこれはすごいな。ゴーレムをいっぺんに作りたい時はこれだな!!」
頭の中に完成形を思い浮かべさえできれば、言葉だけで発動できる。
こんなに簡単で良いんだろうか。
楽過ぎてビックリする。
「本当にありがとうな、ヘスティ。これ、やりやすいよ」
「うん、良かった。その触媒が欠片でも残っている限り、使えるから」
「ああ、そういえば、この骨の杖、本当に貰っちゃっていいのか?」
この世界の物価は知らないけれど、竜の骨は高いって言っていたし。
本当にもらってしまっていいのだろうか。
「ん、いい。我には、もう必要ないもの」
旅が終わったからだろうか。
くれるというのなら、貰っておく主義だから、貰うけどさ。
「返してほしい時は言ってくれよ?」
「ん、その時が来るなら、言う。だからそれまで、持ってて。一杯練習して。――その骨は頑丈だから、百年くらいは振り続けても、絶対に壊れない」
「おう。分かった。一杯練習させて貰うよ」
俺はそのまま夜まで、かなりワクワクしながら、新しい魔力の使い方を試し続けた。
今年もよろしくお願いします! 新年早々型破り。





