206.久しぶりの再会
ヘスティと水族館を楽しんだ後、俺は湖面に向けて、浮上していた。
『我、荷物整理してから出るから、アナタは先に戻っていて」
とのことで、俺はゴーレムにつかまり先に上がることにした。
……やっぱりこのエアゴーレムは中々使えるな。
ほとんど力を使うことなく浮上出来てとても楽だ。
この仕組みは意外とウッドアーマーにも活かせるかもしれないな、なんて思いながら俺は湖面にでた。
軽く水流に乗ってしまったので、コテージからかなり遠く離れた地点になってしまったがまあいいだろう。
そう思いながら近場の砂浜まで泳いでいくと、
「ヒャッハー、ダンナじゃないっすか!」
砂浜の方に、見覚えのあるスキンヘッドがいた。
冒険者グループのリーダー、アッシュだ。
「久しぶりだな。マナリルのライブ以来か?」
「ヒャッハー、そうっす。こんな所で会えるたあ、騎士団の合宿に付いてきてよかったでさあ」
「ああ、アンタらも騎士連中と一緒に来ていたのか」
「ヒャッハー。ここら辺は俺たちの庭みたいなもんすからね。俺らは元々武装都市の出身ですし。それで、さっきまで姫さんに挨拶してたんすよ」
そう言えばそうだったな。
この湖は武装都市の近くにあるというし、詳しくて当然か。
「ところで、ダンナはどうして湖から出てきたんで?」
「いや、普通に潜って泳いでいたんだよ」
言った瞬間、アッシュの顔が青ざめた。
「この湖に潜った……ってマジっすか、旦那……」
「うん? なんかヤバいことでも?」
普通に海水浴ならぬ湖水浴として使われている場所だろうに。
そんなにおかしなことだったのか。
「いや、この湖、魔石の成分が溶け込んでいるせいで、場所によっては、ある程度の深さまで潜ると体に魔力酔いの異常が出るんすよ? というか、旦那が出てきた場所とか、そうですし」
「へえ、そうなのか。でも、特に気持ち悪くなったりしてないぞ」
「ひゃっはー、流石は旦那っすね……」
しかし、そんな症状が出る場所もあるのか。この湖は色々な意味で多様だな。
「あれ、ってことは、底の方に潜るともっと異常が出たりするのか?」
「え……? そ、底?」
「ああ、さっきまで底まで潜っていたんだよ」
「ちょ、こ、この湖めっちゃ深いんすよ!?」
アッシュは愕然とした顔をしているが、そこまで驚くことだろうか。
確かにそこそこ深くて、素潜りで底までいけないのは分かるけど、
「魔力使えばいけるだろ? 幾ら深くても水中で呼吸できる技があるんだし」
「ひゃ、ヒャッハー、旦那はすげえけど、水中呼吸なんて高等技術が使える奴、そんなにいないっすよ?! しかも、この湖の最深部は六百メートルはありますけど、国でも有数レベルの魔法使いでも二百メートル潜るのが精いっぱいだし、記録でも三百以上潜った奴はいないんすからね」
あれ、ちょっと予想外の情報を話してきたよ、この冒険者。
俺の周りがバンバン水中呼吸の魔法を使いまくっているもんだから、そんなに難しいイメージは無かったんだけどな。
「ましてや、深くに行けばいくほど体を圧迫してくる力がありますし。命知らずが三百近くまで潜ったら、内臓を壊して色々と吐き出しながら、死にかけた状態で浮かびあがってきましたしね」
「グロいな、おい」
「ヒャッハー。事実っすから。でも、それ以上の場所にさっきまで潜ってきて、普通に会話できるって、やっぱダンナはスゲーなあ……!」
アッシュは目と頭をキラキラさせて、俺を見ている。
湖に潜って戻ってきただけで、そんな反応をされると、微妙な気持ちになるんだがな。
「まあ、いいや。それでアッシュ、アンタは騎士団の所に行くのか?」
「いや、俺たちは別個で戻る所があるんすけど……ああ、そうだ。向こうのウチの仲間がいるんで、ちょっと紹介してもいいっすか? ちょうど武装都市の酒とか買って来たんで、ついでに幾つか持っていってくれると嬉しいっす」
地酒って奴か。
それはそれで、ちょっと興味があるな。
「そうだな。お言葉に甘えて少し貰いに行くわ」
「ヒャッハー。それじゃ、行きましょう!」
そんな感じで、俺は冒険者と共に砂浜を歩くことにした。





