204.装置の作成
湖周辺の探索は午後からすることになった。
ディアネイアがなにやら用意するものがあるとの事で、昼飯後の腹ごなし代わりに歩く予定だ。
「さて……となると午前は、物品の改造でもするか」
昨日使って改善点を感じたのは釣ざおだけでは無かった。
ゴーレム家具も一度使ってみると、もの足りない部分が見えていた。
たとえば、ゴーレムベッドは座り心地や寝心地は良かった。
けれど、砂浜からの反射熱を上手く遮断できていなかったので、ちょっと寝ていると暑苦しくなってくる。だから、
「……まずは砂浜の熱を防ぐように、樹木のシートを張って、と」
ゴーレムの体に樹木を付けたしていき、その上で再度変形させる。
……ゴーレム家具は改造も改良も簡単に済むから楽だよなあ。
なんて思いながら作業をしていると、
「アナタは、相変わらずゴーレムを細かく、高精度で動かすね」
ヘスティがやってきた。
「おう、ヘスティか。二度寝は出来たか?」
「ん、一杯眠れた」
彼女は朝食を食べてから再び眠気に負けてベッドに入っていたが、もう大丈夫なようだ。目元がパッチリしている。
そんな意識のしっかりした目で、ヘスティはゴーレムを見ていた。
「最初期よりもかなり分厚くなってるね。すごく成長している感じがする」
「はは、後付けでかなりゴテゴテ付けたからな」
まさか使って一日目でこんなに改造するとは思わなかった。
けれども、今の方が使いやすくなっているので、見てくれはこの際後回しだ。
細かい造形は、実用性が出来てから考えれば良いしな。
「ところでヘスティは砂浜に何か用か?」
「んー、砂浜というか湖に用がある。湖の底にちょっとした建物があるから潜ろうと思って」
「へー、建物なんてあるのか」
それは初耳だ。
この湖、周辺も広いと思ったが、縦にも広いみたいだな。
「ん、まあ、そこまで知られてはいないけれども。水中で呼吸できるならば、簡単に行ける場所ではある。魚も一杯いるから、綺麗な所だと思う」
ヘスティは軽く言ってくる。
そういえば彼女は、普通に水中で呼吸できるんだっけな。
「アナタも行く? ちょっとお出かけするくらいの距離だけど」
「そうだなあ……」
俺も一応、水中で呼吸する技術は学んだから、行こうと思えば行けるんだよな。
それに、今日は湖の周辺を探検する気でもいたし、
「そうだな。じゃあ、一緒に行くわ」
「ん、了解。……って、何を作っているの?」
「ああ、保険用の、空気入りゴーレムだよ」
ヘスティと会話しながら作っていたのは、重い樹木の中に大量の空気を入れたゴーレムだ。
水中呼吸の技術があれば、正直必要ないとは思うが、
……まあ、水中だしな。
念のため、酸素ボンベは持っていっておくのもありだろう。
それに、家の近くで水中呼吸の実験をした時に気付いた事があった。
「水中呼吸で水泳するのは楽だったんだけど、浮き上がる時に泳ぐのがちょっと面倒だったんだよな」
だからこそのエアゴーレムだ。
水中での空気は割と使い道が多い。
……少し樹木の比重を変えれば浮き袋になるしな。
思いながら、樹木を圧縮するように、空気を樹木の入れ物に押しこんで行く感覚でゴーレムを構築する。
それを十体ほど、一気に作り上げた。
「なんというか……とんでもないものを、短時間で作るね」
「見た目も構造も普通にゴーレムだしな」
材料も樹木と、そこらへんの空気だけだし。
ちょっと圧縮を強めにしなきゃいけないけれど、それも今までの技術の応用でしか無い。だから意外と簡単だった。
「ん、いや、材料があれば出来るってものじゃないと思うよ? 普通、気体を圧縮して密封するとか、難しい筈、だからね?」
ヘスティは頬を掻きながら言ってくるが、そういうものかね。
まあ、なんにせよ、保険用のゴーレムも出来たんだ。
「あとは《コーティング》っと」
これで水中呼吸の準備も完了だ。
「それじゃ行こうぜ、ヘスティ」
「ん……そうだね。じゃあ、いこ」
ヘスティはそう言って俺の手を握る。
そして彼女と共に、俺は湖へと入ることにした。





