203.朝の熱量
朝食後、砂浜のベッドで涼んでいると、薄着姿のディアネイアがやってきた。
「おはようダイチ殿。よく眠れたかな?」
「おう、ディアネイアか。有難いことに良く眠れたよ。……で、そっちの暑苦しい格好をした騎士団長はなんだ?」
やってきたのはディアネイアだけではなく、金属鎧姿の中年もだった。
声をかけると、彼は引き締まった表情で、俺に向かってぺこりと礼をしてきた。
「お久しぶりです、ダイチ様」
「おう、久しぶり。祭り以来か?」
「はい、その節はどうも。あのジュースのお陰で大分、体の方が強化されましたので」
「そりゃよかった。でも、どうしたんだ、そんな格好でこんな所に来るなんて」
足から首元までガッツリと金属鎧を着こんでいる。
直射日光がじりじりと照らしている砂浜には明らかに似合ってない。
「ディアネイアの警護か何かか?」
「ああ、いえ、今日はディアネイア様とダイチ様に挨拶を、と思いまして。なので、こんな格好になってしまっているのですよ」
「挨拶?」
「はい、今日から、プロシアの騎士による体力練成合宿が、この近くで開かれるのですよ。こういう場所は、鍛えるのに役立ちますからね」
騎士団長は足をガシャガシャと動かしながら言ってくる。
確かにこれだけ足場の悪い砂浜を走り回ったら体力がつきそうだけれどもさ。
「ふむ、近くってことは、この沢山あるコテージを使うのか?」
「いえ、騎士団には騎士団専用の合宿所があります。この湖の反対側と言いますか、湖の奥に小さな島があるのですけれども、そこが合宿所になっておりまして」
あちらの方です、と騎士団長は湖の方を指差した。
だが、湖面しか見えない。
嘘を言う事でもないし、あるというのならばあるんだろうけれどさ。
……どれだけでかいんだ、この湖。
向こう岸が見えないって相当の広さだ。
改めて驚くよ。
「騎士団の大勢は既にそこに送り届けていますので、この辺りでうるさくすることはありません。むしろ、人手が欲しいなどありましたらいつでも連絡して頂ければ、と思います」
「おう、それは了解だ。――ただ、その格好で暑くないのか?」
体力練成とかそういう理由は分かったけど。
騎士団長が纏う金属の鎧には直射日光が当たって、物凄い温度になっていた。
額から流れる汗が触れた瞬間に、ジュッという音を立てて蒸発しているくらいだ。
「蒸し焼きにならないか?」
「はは、この程度は慣れましたよ。内面は魔法による防護も入っておりますし、多少は熱いですが、これも訓練の一環です。それに……この程度で根を上げるようでは、ダイチ殿と喋ることすらままなりませんからね!」
「……ああ、そうかい」
騎士団長は汗を拭いつつ笑顔で言ってくる。
なんというか、直射日光の厳しさと比べられても、反応に困るんだけどな。
「それでは私はこれで。ダイチ様たちは存分にバカンスを楽しんで下され」
「うむ、またな騎士団長」
「では、これにて!」
そう言い残して、騎士団長は走り去っていった。
鎧を着こんでいて、しかも砂浜だというのにかなりの早さで、あっという間に見えなくなった。
「朝から少し暑苦しい付き合いをさせててすまない、ダイチ殿。どうしても騎士団長の奴が挨拶をしたい、と言ってくるものでな」
「いや、別にそれは気にしちゃいないよ」
色々と人手が欲しい時は声をかけられるようになったしな。
それよりも俺が気になっているのは、この湖に付いてだ。
……騎士団はかなりの人数がいた筈だけども、それだけの人が入る程の島があるんだよな……。
この湖にはまだまだ知らない所が多い。
そう考えると、少しワクワクしてくる。
色々と新しい情報を知れるのは中々に面白いんだ。
「ディアネイア、暇な時があったら、湖の施設を案内して貰ってもいいか?」
「え……あ、ああ、もちろん! 是非、案内させてくれ!」
「おう、ありがとうよ」
この辺りの施設についても興味が湧いたし、色々と動いていこう。
どうやら二日目も、かなり楽しく過ごせそうだ。





