-side ディアネイア-王女子会
夜。
ディアネイアが自室として選んだコテージの中は、相部屋することになったアテナの賑やかな声で満たされていた。
「こういうところのお泊まりって、ワクワクするね! 特に、お姉さまと来るなんて久しぶりだし」
「うむ、本当に何年ぶりだろうな。こうして同じ所で眠ることすら、久しぶりだ」
「だねえ」
ベッドの上で体を跳ねさせるアテナを見ながら、ディアネイアはソファに腰かけていた。
そしてテーブルの上に置いてある酒瓶を手にして、グラスに注いでいく。
「あ、お姉さま、お酒を飲んでるんだ。珍しいね。いつもお仕事があるからって、この時間には飲んでいないのに」
「まあ、こういう場所だしな。少しだけ楽しませて貰うことにしたんだ」
城にいるときから、騎士連中や魔女隊の連中からは休め休めと口々に言われていた。
だから、ここで羽を伸ばさせてもらうことにした。
……折角、ダイチ殿とこういう所に来れたんだからな。
楽しませて貰ってもバチは当たるまい。
「んー、お姉さまはもっとお城でも休んでもいいと思うよ?」
「いやいや、何を言っている。城でもちゃんと睡眠時間は取っているし、休めているぞ?」
「うーん、お姉さまの仕事熱心振りは見習っていいのか、見習っちゃダメなのか、難しい所だなあ」
「はは、私を見習う必要なんてないさ。第一王都とプロシアでは条件も違うしな」
などと、アテナと世間話をしていたら、
「ふう、シャワー頂きましたよ、ディアネイア」
コテージのシャワールームの方からカレンが出てきた。
水着から薄い寝間着に着換えた状態だ。
「このコテージの水は冷たくて気持ちがいいですね。使わせていただいて、ありがとうございます」
「喜んでもらって何よりだよ、カレン殿。ベッドはそちらの大きなものでいいか?」
「はい、そちらもありがとうございます」
このコテージは、自分とアテナ、カレンの三人で泊まることになった。
一人につき一つを当てても平気な位の軒数はあるのだが、一人一コテージを使うのもそれはそれで不便になる。
だからある程度まとまって泊ることになった。
……こちらの方が話し相手が多くて楽しいしな。
そう思いながらグラスを傾けて酒を味わっていると、
「……そういえば、ディアネイアはダイチと一緒の部屋でなくてよかったんですか」
「ごふっ……!」
「うわ、お姉さま、大丈夫!?」
カレンのいきなりの台詞に、酒を噴き出しかけてしまった。
「けほっ……と、突然、何を言い出すんだ、カレン殿」
「いえ、ディアネイアがダイチと一緒の部屋に寝泊まりしようと画策していたのを、先日見ていましたから。執務室で計画書を書いていらっしゃったでしょう?」
「い、いつの間に見られていたんだ……というか、あれは単なる妄想というか、仮の計画だとも!」
「そうだったのですか?」
「そ、そうだとも」
本当に気まぐれで、ちょっとした仮定で作った計画だ。
……いやまあ、ほんのちょっとは実現させようとは思っていたが……
ただ、あくまで仮定のものだ。
まさか見られていたとは。
「残念ですね。もしもディアネイアがダイチと同じ部屋だったら、私たちも便乗出来ましたのに」
そんなカレンの言葉にアテナも同意する。
「それは、楽しそうだねー。ダイチおにーさんは、自由に動いているみたいだから、そこまで一緒にいる事は出来なかったかもしれないけれど」
言って、アテナの視線は窓の外に向く。
そこにはダイチが釣竿を持って歩く姿があった。
「アテナ王女も体力がある方だと思っていましたが、ダイチは相変わらずおかしい体力をしていますね。朝昼と大物を釣り上げているのに、まだまだ歩けるとは」
「はは、そうだな。……っと、体力といえば明日は騎士団が到着するそうだ。体力錬成の合宿だそうでな。この辺りに詳しいということで、冒険者も何人か連れてくるらしい」
「へー、そうなんだ。賑やかになるね」
「まあ、訓練場所はここから離れているし、このコテージに寄るのは騎士団長くらいだろうけれどもな」
「そうだねえ。でも、人が増えるのは確かだし――なんというか、明日も楽しみだね、お姉さま、カレン!」
アテナは朗らかに笑って言う。
「はい。ただ、まだ今日は終わっておりませんので、今日も最後までじっくり楽しみましょう、アテナ王女。ディアネイア」
「ああ。今日はまだまだ続くからな」
「うん!」
そうして三人はコテージの中で楽しげに会話を重ねていった。





