198.湖での共同作業
今度の釣り場は、桟橋の反対側にある岩場にした。
皆が泳いでいるところからは少し離れている場所だ。
何故ここを選んだのかというと、
「ダイチさんー。ここの辺りが魚の気配が多いわ」
マナリルが直々に案内してくれたからだ。
「ありがとなマナリル。こんな事に感知能力を使って貰って」
彼女の感知能力はソナーにもなってくれるらしく、魚が集まってくる所が分かるらしい。
たかだか遊びに使ってもらうのがもったいない能力だと思うけれど、
「ふふ、いいのよ。私、ダイチさんが釣りしている所を見るの、好きだから」
そう言ってくれるので気にせず案内して貰う事にした。
そして、ここに来たのは俺だけではない。
「ビーチに岩場があるのは分かっていたが、こんな場所になっていたのだな……」
ディアネイアも付いてきていた。
『午前に水着を釣るという醜態を見せてしまったからな! 午後はしっかり手伝わせてくれ!』
と、意気込んで来たのだ。
別にそこまで気にする必要ないのに、律儀な事だ。なんて思いながらも、
「樹木よ。ベンチに変形」
俺は岩場に樹木のベンチを置いて座った。
デコボコな岩場でも、樹木を変形させればある程度はデコボコに合わせられるので、安定して座る事が出来る。
「ほら、ディアネイアもマナリルも座った方が楽だぞ」
「うん、ありがとうダイチさん」
「で、では、座らせて貰おう」
そうしてベンチに座ってきた二人に挟まれながら、俺は釣りを開始した。
●
数十分後、俺の隣に置いた生け簀ゴーレムの中には、沢山の魚が泳いでいた。
「まさか、ここまでガッツリ釣れるとはな……」
普通の魚が定期的に掛かる。
入れ食い状態というか、竿を振ってしばらく待てば、魚が引っ掛かってる感じだ。
「なんというか、マナリルのソナー力を甘く見ていたよ」
「うーん、確かに魚は沢山いるけれど、釣り糸やルアーの魔力を抑えて動かしているのはダイチさんなんだから。この釣果はダイチさんの実力だと思うわよ。私はあんまり釣れてないし」
マナリルは確かに数匹しか釣れてないけれど、それでも十分だと思うぞ。
「そもそも、俺には入れ食いにするほどの技術はないんだけどな。まあ、釣れているから良いんだけどさ」
結果だけを見れば、大量の釣果が得られて有難いのは確かだしな。
夕飯の材料が増えていくのは嬉しいし。なんて思っていると、
「だ、ダイチ殿。すまないが、手伝ってもらっても良いだろうか?」
「うん?」
ディアネイアが釣竿をぐいぐい引っ張っていった。
「どうした?」
「先ほどから、力の掛かり方がおかしくてな。もしかしたら、根がかりをしてしまったかもしれないのだ」
「根がかり? そこまでするほど糸は長くないんだがな」
呟きながらディアネイアの竿に軽く触れる。
すると、糸の先から、引っ張る様な力が来ているのが分かった。
「へえ、大物が釣れてるみたいだぞ」
「そ、そうなのか? だ、だが、幾ら引っ張っても、びくともしないぞ?」
ディアネイアは、立ち上がって引っ張っているが、それでもなお糸の先は動かない。
よほどの重さがあるらしい。
「ふむ、んじゃ、手伝うか」
「では、この釣竿は貴方に……」
「ああ、その必要は無いぞ」
「え?」
言いながら俺は、ディアネイアの背後に回り、彼女の釣竿に手を添えた。
すると、ディアネイアの顔が一気に朱に染まった。
「だ、ダイチ殿!? な、何を……!?」
「いや、ちょっと力貸すだけだ。俺が竿をひったくるってのは、なんか違う気もするしな」
俺が力を貸すにしても、この竿は最後までディアネイアが持つべきだろう。
そう考えたから、この体勢をとったんだ。
「そ、そうなのか。い、いやあ、うん、勘違いしてしまった! でもありがとう、ダイチ殿」
「礼は釣り上げてからにしてくれ。一気に引き上げるぞ」
「あ、ああ、よろしく頼む!」
「「せえの……!」」
俺とディアネイアは声を合わせて、全力で竿を振り上げた。
釣り糸がギシリときしむが、流石はドラゴンの糸だ。
切れることなく、力を伝え、一気に糸の先についたモノを引き上げる。
そして湖面から出てくるのは、
「タコの……足?」
赤と金色が混じった、タコの足だった。
ただし、とんでもなく太く長いものだった。
更に、釣り上げた足だけではないようで、
「だ、ダイチ殿、向こうから何かが出てくるぞ!」
「うん?」
見れば、岩場の向こうの湖面が盛り上がっていた。そして、
――ザパアッ!
と、飛沫をあげて、赤と金色がきれいに光る、巨大なタコが浮かび上がってきた。
どうやらかなりの大物を釣り上げたようである。





