196.竜王の手技
用意された昼飯は、ビーチに集まった皆で食べきった。
……用意したといっても、鉄板にさばいた素材を並べて焼いただけ、なんだがな。
火の通っていった順に適当に食べていっただけだ。
それでも野外で、しかも砂浜という開放的な空間のお陰か、いつも以上に箸が進んだ気がする。
そのまま腹いっぱいにした俺は、
「よし、ゴーレム。ベッドに変形」
砂浜にゴーレムベッドを作成していた。
「うわあ! ダイチお兄さん、なにこれ!」
「ちょっと横になれるように作ったんだ。昼飯を食った後で、眠くなってくる奴も出るだろうしな」
「あー、そっか。休める場所があると楽だね」
「おう。ただ……アテナとかは元気そうだな」
午前だけでもあれほどエネルギッシュに動いていたのに、全然疲れたような素振りを見せない。
「うん! ここに来るのは久しぶりだからね。――でも、ダイチお兄さんだって、全然疲れていないよね」
「桟橋に座って俺は魚釣りをしていただけだからな」
「いやいや、あんなでっかい魚をいっぱい釣っていたんだよ!? しかも精霊魚とか相当手ごわい魚ばかり。なのに元気なんだから、凄いよ」
確かに引きは強かったけれど、釣竿と糸が高性能だったからな。
そのお陰もあるんだろう。
「ともあれ、疲れたら休んでくれ。パラソルで日陰も出来てるしな」
ベッドは、パラソルの近くに設置した為、一部が日陰になっている。
これなら日焼けも少しは避けられるだろう。
「うん、分かった! じゃあ、疲れるために泳いでくるね!」
そう言って、アテナは元気よく湖に突貫していった。
本当に体力が有り余っているようで、良いことだな。俺もその内、泳いでおきたいところだが、
……まずは午前中に使った竿を改良だな。
色々と課題は見つかっている。
泳ぐのは後回しだ。
だからベッドに座って、釣竿を眺めていたのだが、
「む……流石に砂浜からの反射で少し焼けるのは避けられないか」
パラソルで日陰を作っても、白い地面から来る太陽光の反射がある。
そのせいでベッドが熱くなるほどだ。
「このままだと、日焼けするかもなあ」
砂浜にもシートを敷くべきだったか、と思っていると、
「ダイチ様ー! 私、日焼け止めを持ってきましたよ!」
俺の声を聞きつけたのか、アンネが砂浜をダッシュしてきた。そして、
「塗らせてください!」
俺の前に来るなり力強く言い放った。
手には、恐らく日焼け止めであろう液体の入った瓶が握られている。
正直、それを渡してくれれば、俺は自分で塗るつもりなんだが。
「塗らせてください! ダイチさまの背中にねっとりと!」
同じことをまた言われたよ。
どれだけ塗りこみたいんだよ。
「だ、だって、ダイチさまの肌に合法的に触れる機会なんて無いですから……。だ、駄目ですかね?」
アンネはおずおずとこちらの顔色をうかがってくる。
「ああ、まあ、別に塗ってくれるって言うんなら、有難いんだけどさ」
「ありがとうございます! うへへ、ダイチさまに触れられるのはご褒美です……」
目が怪しいな、この竜王は。
というか、頬に小さな手形が付いているんだけど、
「お前、さっきまでヘスティの所にいただろ……」
「はい! 姉上さまには顔を押しのけられて逃げられてしまいましたが……えへへ。ダイチさまという素晴らしい方が来てくれたので結果オーライです!」
頬を上気させながら言ってくる。
本当に懲りないなこの竜王は。
「まあ、良いや。塗ってくれ」
「はい!」
俺はベッドに横になり、波打ち際を眺めながら、アンネによる塗布を受けていく。
俺の視線の先では、カレンの奴が目をかっぴらいてこちらを見ている。
ちょっとそれが気になるので早めに済ませてほしい所だが、
「ああ、でも、この後はお返しで俺が塗ろうと思うんだが、いいか?」
「え、私に……ですか? えっと、いいんですかね?」
「まあ、塗ってもらうんだしな。アンネが良いっていうのならば、やらせてもらうさ」
「是非お願いします! よおし、丁寧に気合を入れて塗らせて貰いますね!」
「ああ、ほどほどで良いからな」
というわけで、竜王の手によって、俺は日焼けに強くなったようだ。





