195.野外炊飯
野外調理場には、大きな鉄板が置かれていた。
その横にはモノを切り分けるためのテーブルがあり、サクラはそこで野菜などを切っていた。
「サクラー、魚捌くけど、三枚で良いか?」
「あ、はい。でも主様はお休みして頂いても大丈夫なんですよ?」
「まあ、こんな場所だからな。ちょっとくらい手伝わせてくれ。自分が釣ったモノも捌いてみたいしな」
味付けはともかく、食材を切るだけなら俺にも出来る事だしな。
たまにはやらせてもらおう。
「では、お願いしますね。私はディアネイアさんが用意してくれたお肉や野菜の下準備をしてしまいますから」
「頼むわ。俺は俺で魚を捌いたら渡すから」
そう言って、俺が魚をまな板の上に並べていると、
「私もお手伝いしますよー、ダイチ様ー」
アンネがにこにこ笑顔で走り寄って来た。
なんでそんなにテンションが高いのかと思っていたら、
「……」
胸元には、捕獲されたヘスティがぐったりした状態でいるからだった。
こっちに来る時に捕まったんだろう。
もう諦めた目でこちらを見ているから、何も言うまいが。
ともあれ、人手が増えるのはありがたい。
「それじゃあアンネは、ゴーレムから魚を抜きとっておいてくれ。活きが良いから気をつけてな」
「了解ですー」
危ない魚も捕まえているが、竜王な彼女ならば大丈夫だろう。
そう思いながら、俺はまな板の上の精霊魚をさばいていく。
黄金に光る魚は、意外にも暴れることはなかった。
物騒な牙と角を持つ魚だから少し気合を入れて抑えていたのが良かったのか、ともあれ無事にさばけるのはいいことだ。
「いや……あの、アナタの気合の入った拘束から抜け出すモノはいないんじゃないかな。いくらその魚の魔力が、強くても」
「そうか? こっちは結構、気が抜けないんだけどな」
料理する時に怪我をするとテンションが落ちるし。
安全に調理するのが一番だ。
「そうだね。というかアナタ、魚、捌けるんだ」
「まあ、それなりにな」
これまでサクラ任せにしてきたことで、さばき方を思い出すのに少し時間が掛かったけれど。簡単な三枚下ろしくらいなら出来る。
そんな事を思っていると、
「なんというか、新鮮な魚は丸ごと食べるものだと思っていたから、新鮮」
ヘスティが妙な事を言い出した。
「丸ごと……って骨ごとか?」
「ん、そうだよ?」
普通に頷かれたよ。
いや、そうだった。
この竜王は食に頓着がないんだった。
「……アンネ、ヘスティの食生活って昔からこうなのか」
アンネに尋ねると彼女も気まずそうに頬を掻いていて、
「ええと、はい。お肉もお魚も、焼いたり切ったりした方がいいと思うんですが、丸かじりすることが多かったですね」
道草を食っていたのは知っていた。
けれども、まさか魚や肉にも当てはまるとはな。
「あー……これもいい機会だから、ヘスティが良ければ、料理やってみるか? といっても、切って味見したりするだけだが」
聞くと、ヘスティはおずおずと俺の顔を窺ってきた。
「いいの?」
どうやら全く興味がないという訳でもなさそうだな。
「おうよ。俺が教えられそうな数少ないことだからな。一緒にやろうぜ」
「ん、我、料理の知識も欲しかったから、助かる。――ありがとう」
「どういたしまして」
俺はヘスティに包丁の使い方を教えながら、魚をさばいていく。
そして、そのまま皆で、昼飯を作り上げていった。





