194.湖の味覚
ディアネイアの水着騒動をどうにかした後、俺は魚を何匹が釣り上げることに成功した。
ただ、
「なんでどいつもこいつもピカピカしてるんだ……」
俺が釣り上げたのは金だの銀だの、金属のような光沢を持つ魚だった。
確かに魚の鱗によっては銀色に見えたりするけれど、ここまで金属っぽい魚は見たことがなかった。
しかも大体が五十センチ越えのデカブツだから、かなり異様だ。
「これは……シルバーガードだな。金属と同等以上堅さを持つ鱗を持っている魚だ」
なので、ディアネイアから釣るたびに知識を貰っていたりする。
「その為、釣り糸に掛かっても、摺り切ってしまう程の魚なのだが……この糸を作ったダイチ殿は本当にすごいな……」
「まあ、この糸は金属以上に堅いみたいだからな。それよりも、この辺りに危ない魚が結構いるみたいだな?」
網を食い破ったりする魚もいれば金属っぽいのもいるとは。
こんな場所で泳いで大丈夫なのか。
「いや、こういった魚は普段、深い湖底でじっとしているだけなので問題ないんだ。それに水浴する場合は、魔法の防護をかけるので、怪我を負う心配は無いしな」
「あー、この前言っていた奴か」
「ああ、それにアンネ殿が言うには、私たちに渡した水着全てに防護が掛かっているから、ちょっとやそっとでは肌を傷つける事もないそうだ」
「へえ、アンネの水着ってそんな機能が付いていたんだな」
普通に身につけやすいものだとしか思っていなかった。
……魔法は本当に便利だな。
ともあれ、泳ぐのに心配ないというのであれば、気にしないでおくとして、
「で、このシルバーガードも食えるのか?」
「あ、ああ、やっぱり食べるつもりだったのか」
「折角釣ったんだから、そりゃ食べたいだろ。毒はないんだよな?」
「うむ、毒性は全くない。身も淡白で美味しかった筈だが……鱗が問題でな。はがせば食えるが、普通の包丁では刃が立たないぞ?」
そういや金属並みに堅いんだっけな。でも、
「その辺はどうにかなるさ。ラミュロスの鱗もあるしな」
ゴーレムの中に幾つか仕込んできた鱗がある。
本来はルアーが欠けてしまった時の補修材、あるいはなくしてしまった時に新しく作る為の素材として持ってきたものだが、
……小さな包丁くらいならばすぐに作れるだろう。
ちょっと硬い金属程度なら、竜の鱗の包丁で切れるだろうし。
「そうか。うん……そうだな。金属の堅さ程度、貴方ならどうにでもなるよな」
「俺っていうか、竜たちの鱗のお陰だけどな」
なんにせよ、食えそうならば、問題ない。
食えない魚を釣ってしったとなると微妙に悲しいしな。
なんて思っていると、
「ぐう」
と、腹が鳴る音が聞こえた。
音源は、隣でずっと釣竿を垂らしていたへスティの腹だ。
「……お腹、減った、のかな?」
「だから空腹に対して疑問形は止めろって。でも、そうだな、もうそろそろ昼飯の時間だったな」
太陽がとても高い位置にある。
……真昼間か。
腹が減るのも当然だろう。
ちょっと朝も早めだったしな。
そう思いながら俺はディアネイアからもらった見取り図を見る。
「ええと、――野外調理場はコテージの向こうか。鉄板とかはあるのか?」
「ああ、もちろんだ。一通りの設備は揃っているぞ。他の野菜などの材料も用意してある」
「了解。それじゃあ、適当に調理しちまうか」
捌いて焼くだけでも、それなりに美味いだろう。なんて思っていると、
「主様ー。私の準備はできていますよー!」
コテージの方からサクラがこちらに歩み寄ってきた。
見れば水着の上からエプロンを着用済みである。
「え。ずっとスタンバイしてたのか?」
「いえいえ、先ほどまで泳いでいたのですが、主様が魚を釣り上げるのを見て、事前に料理できる準備を整えていたのですよ」
「おー、なんか悪いな」
「いえいえ、美味しい料理を食べてもらうためなら、なんてことないです!」
サクラは力いっぱい頷く。
どうやらサクラも旅行に来て、いつも以上に興奮気味のようだ。
「まあ、そうだな。皆を集めて、一気にガッと食っちまうか」
そう言うと、今度はディアネイアが頷いた。
「では、私は向こうで遊んでいる皆に声をかけておこう。ダイチ殿はサクラ殿や、ヘスティ殿達と先に向かってくれ」
「了解。んじゃ、行くか」
「ん、向かう」
そうして、俺はサクラと竜王二人共に、調理場の方へ歩き出した。
ビーチでの、新鮮な昼飯を楽しみにしながら。





