193.釣果、第二号
黄金に輝く魚をとっ捕まえてしばらくした後、
「あ、そういやディアネイア。流れで魚釣りに誘っちまったけど、大丈夫だったか?」
さっき俺を探していたみたいだけれど。
何かしら用でもあったんだろうか。
「ああ、いや、違うんだ。貴方を探していたのは、これを渡す為でな」
言って彼女は釣竿を垂らしながら、一枚の紙を手渡してきた。
それを広げてみると、
「これは……この辺の見取り図か」
「ああ。ビーチの敷地内の設備を一覧で見れるようにしてある。自由に使って貰って構わないと言ったが、何が使えるか分からないと困るだろうと思ってな」
「おう、助かるよ」
特に何がやりたいというわけでもないけれど、何が出来るのかが分かるのはとても有難い。
「何か買い物がしたい時は、敷地内にも商店があるので、必要があればそちらを利用してほしい。水着などをなくした時は、そこで揃える事も可能だしな」
「そうか。まあ、俺はアンネから大量に貰っているから心配はないんだけど……って、今更だけど、着替えたんだな、ディアネイア」
初めての釣果に興奮して思いっきりスルーしてしまったが、ディアネイアはとてもきれいな水着を来ていた。
ビキニタイプで体のラインが良く見えるのだが、引き締まった体にオレンジ色の水着が良く似合っているんじゃないだろうか。
そんなふうに思っていると、
「そ、そこまでじっくり見られると恥ずかしいが、ど、どうだろう? 派手じゃないだろうか」
ディアネイアは照れ照れと頬を染めながら聞いてきた。
なんだ、恥ずかしいのか、もっとみられたいのかよく分からない問いかけだけれども、
「ああ、可愛いと思うぞ。俺は美的センスがそこまでないから、あくまで感覚だけどな」
そう言った瞬間、ディアネイアの表情がパアッと明るくなった。
「ほ、本当か! ありがとう!」
嬉しそうにディアネイアは両手を上げて、ぐいっと身を近づけてきた。
ただ、釣竿を持ってそんな動きをしたものだから、
「あ、おい。ルアーが跳ねあがってくるから危ないぞ」
「え?」
声を上げると同時、ディアネイアの背中をルアーがかすめた。
しかも、ちょうど結び紐の部分を引っ掛ける感じで、だ。
そして、勢いよく跳ねあがったルアーは、
「あ」
そのままディアネイアの水着の一部を持っていってしまった。
「わ、わああああ! 私の水着が!」
ディアネイアは慌てて胸元を抑える。
まあ、ポロリする寸前で押さえつけられたから、危ない部分は見えなくてよかったけど。
「……何で自分を釣っているんだ、お前は」
俺も昔は耳の皮を釣ったり、自分の服を釣ったりした事はあるけどさ。
水着でここまで派手にやらかした奴は初めて見た。
というか、今回の釣りの第二の釣果が姫の水着ってのもアレだけど。
「う、うう、私もこんなことは初めてだ。ま、魔法で服装が外れないように強化しているのに……」
「え? そんな魔法があるのか?」
「あ、ああ、防護力を上げて、薄着でも大胆に動けるような魔法はあるんだ。これをしておけば、装備を外されたりとかもしないからな。実用性のある戦闘用の魔法なんだ」
ああ、なるほどな。用途は水着だけじゃないのか。
装備が手元から離れないのは、確かにメリットがある魔法だ。
「でも、なんでその魔法が掛かってんのに、今は外れてるんだ?」
俺は頭上を見上げる。
そこには、ルアーに引っ掛かったオレンジ色の水着が、プランプランと揺れていた。
「あ、あのルアーの魔力が強すぎて、防護を貫通してきたんだ!」
「あー……竜の鱗を使ったルアーには効かなかったのか」
まあ、うん。そういうことなら、次は気をつけた方が良さそうだな。
……針もあって危ないし。
そう思いつつ、俺はルアーから水着を外して、胸元を抑えてうずくまるディアネイアに渡しておく。
「ほれ。あっち向いてるから着ちゃってくれ」
「うう……すまない」
「いや、実害ないから良いさ。新しい事実も分かったしな」
俺のルアーを使う時は、ちょっと気を払おう。
これを使ったからと言って水着ばかり釣れるとは限らないし、釣る気もないけれど。
その辺は注意するだけしておこうか。





