-side 竜王-竜のめざめ
湖の砂浜でへスティが荷物を引きずっていると、マナリルがやってきた。
「あれ、ヘスティ、なにをしているの?」
「ん、荒療治」
ヘスティはそう言って荷物――未だに眠っているラミュロスを砂浜に転がした。
「ぐっ……ふー」
回転の衝撃にも関わらず、彼女は涎を垂らしっぱなしで眠っていたが、
「これで、よし」
砂浜の上にきっちり転がった事を確認したへスティは頷いて、そこで動きを止めた。
ジリジリと太陽が照らす空の下。
ゆっくり待つこと数十秒。
「んあ……あつ……いっ!?」
太陽光でしっかり熱された砂は、ラミュロスの頬もしっかり熱したようで。
「あじゅい!!」
ラミュロスはその場で飛び起きた。
「流石に、砂浜の熱くらいになれば、いくら鈍感なラミュロスでも、起きるね」
「そ、そりゃ起きるけど、ひ、酷いよ、ヘスティー!!」
真っ赤になった顔で抗議をしてくるが、へスティは半目を向けるのみだ。
「酷くない。起きないラミュロスが悪い。約束した起床時間はとうの昔に過ぎている」
「約束って……あれ? というか、どこ、ここ? ボク、ダイチさんの家で眠っていたような気がするんだけど」
「湖。起きないから我が引っ張ってきた」
その言葉で、ラミュロスは察したらしい。
「あっ……そ、そうなんだ」
「そう、ここまで引っ張ってきた。起きるって約束していたのに、起きなかった奴を、引っ張ってきた」
「ご、御免、御免ってヘスティ! ちょっと興奮して寝付けなくて、眠るのが遅くなっちゃったんだってばー」
そう言って泣きついてくるラミュロスに、へスティは吐息する。
いつも通りすぎて、どうしようもないな、と思いながらも、
「まあ、起きたのなら、もう話は終わり。向こうに部屋があるから、色々と準備をしてくるといい」
「わ、分かったよー。すぐに戻ってくるね!」
そう言って走り出したラミュロスの背中を見て、再びへスティは息を吐く。
「これで、よし」
「へスティも大変よねえ」
「まあ、慣れた。それにマナリルも、久しぶりの湖、どう?」
「どうって言われてもね。しばらく離れていたけれど、そこまで汚染はされてないから、さっき歌って、軽く浄化してきたわ。だからモンスターは出たりしないわよ」
湖に悪い魔力が流れ込むのは、自然の流れだ。
だからこそ、マナリルによる定期的な浄化が必要になったりする。
カトラクタがいなくなった今は、そこまで頻繁にやらなくてよくなっただろうが、それでも必要なことなのだろう。
「まあ、ここに定住しなきゃいけなくなった時に比べれば、随分と楽よ。本当にダイチさんのおかげだけど」
「そう、だね。あの人がカトラクタをなんとかしてくれたおかげで、何の気負いもなく、遊べる」
普段は、湖で泳ぐとき、カトラクタの動向をきっちり頭に入れておかねばならなかった。だが、今回はそんな事を気にしなくてもいい。
そう思ったら、すっと心が軽くなった。
「こうして泳げる日が来るなんて、ねえ」
「ん、本当だね。あ……、でも、湖底にダンジョンとかあった気がするけど、そっちは大丈夫なの?」
この湖には、湖底にダンジョンが沈んでいる。
遥か昔から存在しているもので、内部にモンスターは残存していないのは分かっている。
ただ、魔石の算出装置としての機能は動いていたりする。
そこに異常があれば、ダイチやディアネイアに伝えようとも思うが、
「全く問題ないわね。というか、ディアネイアさんも知っていたわよ、固定ダンジョンの存在。現在停止中ってことも」
「ああ、そうなの。なら、問題ない、ね」
既に問題になりそうな事項が知られているならば、自分が動く事は無いだろう。
へスティがそう思っていると、
「お待たせー、へスティー!」
水着を着たラミュロスが大きな胸を揺らしながら走り寄って来た。
さっきまで熱い熱いと頬を抑えていたのに、もう忘れてしまったかのようだ。
「ふう……まあ、偶にはラミュロスみたいに気楽に遊ぶのもいい、かな」
「そうね。皆もいることだし、適当に泳ぎましょうか」
竜王たちはほほ笑みと共に、湖を満喫していく。





