189.inリゾート
「私たちのプライベートビーチにようこそ、ダイチ殿。歓迎するよ」
俺たちを連れてきたディアネイアは、開口一番にそう言うと、両手で目の前に広がる景色をアピールした。
「ここから見える範囲、全て使って貰って大丈夫だ」
「おう、使わせてくれてありがとうよ。……にしても、すげえところだな」
俺はディアネイアがアピールしてきた景色を、改めて見回した。
青い空の下に広がる湖。
そして、波打ち際には白く輝く砂浜がある。
本当にここは湖なんだろうかと思ってしまう程の場所だ。
「こんな綺麗な砂浜のある湖なんて初めて見たよ。すげえ良い所に連れてきてくれたんだな。ありがとう、ディアネイア」
隣に立つディアネイアに礼を言うと、
「お、おお、それは良かった。私はいつも貴方に驚かされてばかりだから、少しはそのお礼をすることが、できたかな……」
彼女は照れくさそうにはにかんだ。
確かにディアネイアの言う通り、この光景は正直驚きだった。
プライベートビーチという響きから、凄い場所なんだろうとは思っていたけれど、ここまで綺麗な場所だったとは。
「主様、凄く良い景色ですね。風も気持ちいいですし」
「おお、本当にな」
庭にいた時も涼しい風が吹いていたけれども、湖の風はまた少し感じが違う。
砂のやける匂いみたいなものがあって、なんとなく爽やかな気分になる。
庭と違って太陽光を遮るものがないから、物凄く暑いのだけれど、この風やら風景のお陰で不快感は全然ないな。
「湖には久しぶりに戻って来たけれど、やっぱりいいわねえ」
「ん、同意する。ここはいつも、気持ちいいね」
小さな竜王は二人はそれぞれ楽しそうに笑っている。
嬉しそうで何よりだ。
「すかー、むにゃ……」
「あああああああああ、青い空と白い砂浜と白い姉上さまが最高です……!!」
まあ、大きな竜王も、それはそれで楽しそうだが。
一人は楽しそうに眠っているし、一人は今にも鼻血を出しそうなくらいに上気しているから、ちょっと危ないけれども。
「って、そうだ。ディアネイア、軽く樹木のパラソルを作ろうと思うんだが、この辺りに張ってもいいか?」
「え、ああ、構わないぞ」
「んじゃあ、この辺に、と。――樹木とゴーレム、変形」
俺は砂浜にリンゴを一つ埋め込み、その上にゴーレムを立たせて変化させた。
それだけで、日よけ用の巨大なパラソルが突き立った。
「これでヨシと」
「あ、相変わらず規模が物凄いな、貴方は」
「まあ、大勢いるしな」
パラソルの下にはベンチとかも置くだろうし、ある程度は大きい方が良いだろう。
そう思ってゴーレムとリンゴで規模を拡大してみた。
砂浜でも上手いこと埋まってくれて良かった。
「あとは、このゴーレムを置く場所だが、その辺に適当においておいてもいいか?」
「あ、ああ、それも構わないが……一応、こちらで宿泊できる場所は用意してあるので、そちらにおいてはどうかな」
「え? 泊る場所まで借りちまっていいのか?」
聞くと、ディアネイアは力強く頷いた。
「勿論だとも! 是非、このビーチの設備を味わってほしい! 食材もたっぷり用意してあるのでな、料理も任せてくれ!」
「そうか。まあ、有難いな」
俺はビーチだけの使用許可だと思っていた。
だから、その為に、テントに変形してくれるゴーレムを連れてきている。
ただ、その必要は無かったようだな。
いやまあ、勿体ないから、どこかで使おうとは思うけれども。
泳ぎ疲れた時に休む場所としても、使えそうだしな。
ともあれ、宿泊については問題なさそうだ。
「では、荷物もあるし、まずは宿泊地を案内させて貰ってもいいだろうか。そっちにはアテナたちもいる筈だしな」
「おう、そうなのか」
そういえば先行しているって言ってたっけな。
「じゃ挨拶もかねて、そっちから行くかね」
別に今すぐ湖に飛び込みたい気分でもないしな。
ゆっくり動いていこう。
「ああ、ありがとう。では、こちらへ来てくれ」
というわけで、俺たちはまず、ディアネイアが用意した宿泊場所に向かうことにした。





