186.室内特有のゆったりまったり感
夕方になり、庭での作業を切り上げた俺は、室内作業に移っていた。
作っているのは糸の仕掛けだ。
あれから糸は幾つか生産してある。
なので根がかりや、糸の断裂が起きてもすぐに取り換えられるようになった。
……ただ、現場でルアーや針をとりつけると手間が掛かる。
だから先に仕掛けを作ることにした。
そうして、俺が室内でチマチマと糸と針を弄っていると、
「主様、私もお手伝いしてもよろしいですか?」
サクラが隣に座って、お茶を差し出してきた。
「おう、じゃあ、そっちの糸を頼むわ」
「はい」
お茶を受け取って一口飲んだ俺は、サクラと共に、糸を結んでいく。
「しかし、やっぱりサクラは編むの上手いな」
俺よりも手際よく糸を結んでいく。
俺がそこまで器用じゃないというのもあるが、それ以上にサクラの手際が良すぎる位だ。
「主様に褒めて頂けて嬉しいです。……といっても、私は編み物や縫物で糸の扱いに慣れているだけなんですが」
サクラは楽しそうに微笑んでいる。
そして笑みのまま、糸を見る事もなく結んでいく。
こう言うのを見ていると、慣れってすごいんだな、と思ってしまうな。
俺も見習おう、と糸を堅く結んでいく。
外からは夕日の光が差し込んで来て、なんともまったりした時間が過ぎていく。
「というか、こうして室内でゆるゆる作業するのは久しぶりだな」
「そうですねえ。最近は、材料がすぐに取れる、庭で作業する事の方が多くなってますからね」
「居心地で言えば、室内が一番なんだけどな」
室内は風もよく通るし涼しくて過ごしやすい。
飲み物も冷蔵庫から出せば冷たいものが飲めるし、歩く必要もないし、とても楽に過ごせる。
「最近は庭の設備が充実してきて、過ごしやすくなっているけれど、それだけにこの家の過ごしやすさを再認識出来てるよ。それと、サクラがいる事の有り難さもな」
「ふふ、そう言って頂けると光栄です。……っと、結び終わりましたね」
「おお、マジか」
会話している間にサクラは仕掛けを作り上げてしまった。
本当に早いな。
「私の方はルアーを取りつけるだけでしたし。取り付け部分は主様がしっかり作っていましたから楽でしたので。それに、主様も残りひとつで終わりじゃないですか」
「まあ、さっきからずっとやってたからな」
俺もちょっとは慣れてきたところだし。
「ではでは、主様がその結びを終える前に、私は夕食の準備をしておきますね。細かい作業に気を張っていて、お腹もすいていらっしゃるでしょうし」
「あー、そういや、いい感じに空腹だな」
こういう地道で小さな作業をしていると、空腹を忘れやすいんだよな。
そして、終わった瞬間にどっと腹が減った感覚に襲われたりする。
「んじゃ、夕飯の方は頼むわ」
「はい、お任せください」
サクラは立ち上がってそう言ったあとで、不意に何かを思いついたように言葉を続けた。
「ああ、そうです主様。明日から水産物を食べる事も多くなるかもしれませんし、今日はお肉にしましょうか」
確かに、俺たちは、明日からは水辺に行く。
……だから肉を食わないってわけじゃないだろうけど……。
そうだな。家での肉料理はしばらくお預けであるのも事実だし、
「うん、じゃあ、肉料理を楽しみにしてるわ」
「はい、腕によりをかけて作らせていただきますね!」
そうして、サクラはぱたぱたと台所に向かった。
俺は俺で、自分のすべきことを――仕掛けづくりの最終調整をしていく。
そんな感じで、出発前日の夜はゆったりと過ぎていった。





