184.竜の糸
抱き枕ゴーレムや、旅行先に持ち運ぶ道具を一通り作った後、俺がお茶を飲んで休んでいると、
「複合ゴーレムとか、魔力を感じる道具とか……また沢山、作ったね……」
へスティが隣までやってきた。
「沢山っていうほど沢山じゃないけどな。朝方から作業を初めて、十体しか作れなかったし」
「ん、それでも、十分だと思う。――これ、全部持っていくの?」
「持っていくって言うか、連れていくつもりだな」
抱き枕とはいえ小さいゴーレムなので、指示すれば付いてくるようになっている。
「割と凄い光景になりそう」
「まあ、大所帯になりすぎないように工夫はするつもりだよ」
流石にプライベートビーチといっても、どのくらいの広さがあるか分からない。
そこに大量の荷物を持ちこむのもアレだしなあ、などと思っていたら、
「ん? これは……なに?」
ゴーレムたちの横に置いていた、樹木の棒にヘスティが興味を示した。
「これ、もしかして、釣りざお?」
「おう、今回行く湖って、魚もいるってマナリルが言っていただろ? だから作ってみたんだよ」
釣りが趣味だったってわけじゃない。
けれど、子供のころはよくやっていたし、湖で泳ぐだけじゃなく釣りをするのも良いと思ったんだ。
「そうだったの。確かに、あの湖は、沢山、魚いるね」
ヘスティも頷いているし、ちょっと楽しみになってきたよ。
「……あれ? でも、この釣りざお。糸ないけど、どうするの?」
「ああ、釣り糸は今、考え中なんだ」
「考え中?」
家の中を探せばテグスの一つや二つは出てくるだろう。それに、街に行けば買えるだろうけれども。その為に一々街に行ったり、家を漁るのは面倒だからな。
「だから、これを使って出来ないかと思ってな」
俺が取りだしたのは、昨日、ラミュロスから貰った鱗の一欠けらだ。ただ、その鱗の色は淡く、柔らかいが。
「それは、ラミュロスの未成熟の鱗、だね。まだ柔らかい奴。それを、どう使うの?」
「いや、以前、鱗の加工をやっただろう? 薄くしたり伸ばしたり、さ。だから、これを思いっきり細くしたら、糸っぽくなるんじゃないかと思ったんだよ」
そう考えて、俺は竜王の鱗をぎゅっと握りしめた。
すると、鱗は自分の手の中で一気に柔らかくなり、どんどん細く伸びていく。
その伸びた鱗の糸を、樹木のボビンで巻き取っていく。
「すごい……本当に出来るんだ……」
ヘスティはその光景を見て唖然としていた。
実は俺も、半ば実験的にやっているので、ここまで上手く行っているのは予想外だったが、上手く行っているのならば問題ないだろう、と糸づくりを続行する。
一欠けらの鱗から、糸はどんどん生産されていく。
釣り糸だからそこまで細くする必要は無いだろうし、極限まで細くする技量もないから、ある程度で精さんは止まったが、
「よし、とりあえず何十メートル分かは出来たんじゃないか」
ボビンには十分な量の糸が、しっかりと巻きついていた。
少なくとも、今回の釣りで使う分は出来たんじゃないかと思う。
「なんというか、相変わらず、無茶をするね、アナタは……。竜の鱗をこんなに細く改良する人、普通はいないよ」
へスティは竜素材で出来た糸をツンツン触りながら、口をぽっかり開けていた。
「ま、材料があって有難かったってことでな。あとでラミュロスには感謝しておくわ」
おかげで糸を探したり買いに行く手間が省けた。
そして糸と竿を作ったのならば、次は針だ。
けれども、これは前二つよりもとても簡単で
「あとは、適当な鱗を釣り針に加工して……ついでにルアーも作って……っと」
硬質な鱗を加工するだけで出来あがってしまった。
そうして、数分後。
作り上げた部品を組み合わせて、俺の特製釣竿は完成した。
糸が実験作の為、かなり太めで、魚に気付かれたり、釣れなかったりするかもしれない。
だがまあ、それなりの形は作れたからいいや。
あとは、適当に試していこうかね。





