182.後のお楽しみの追加
俺が家の一階でサクラとお茶を飲んでいると、温泉の方でバシャーンと派手な水音が聞こえた。
というか温泉がめっちゃ跳ねている。
「あ、水着選びの後半戦をやっているようですね」
「なんで水着選びであんな派手な音がしてるんだろうな」
まさか本当に戦っているんじゃないだろうな。
「多分、フィット感を確かめるために、軽く泳いでいるのかと」
「……風呂で泳ぐなと言いたいが、まあ、あそこは広いから多少はいいか」
どうせ掃除もしなきゃいけなかったし。
あとで、ゴーレムと一緒に浴槽を磨かないとな。
「というか、サクラは水着選びしなくていいのか? 途中まであの三人と一緒にいたみたいだけど」
女性陣が水着を決めている間、俺は一人でお茶を飲んで休憩していた。
だが、サクラは一人、早々と抜けだしてきてしまったのだ。
「もっと相談とかしなくていいのか?」
「ええ、私はさっさと決めてしまいましたからね。しっかり水着を貰っているので、あとは主様に見せるだけです」
「俺に見せるまでがワンセットなのか」
「はい、もちろんです。ただ泳ぐだけなら、選んだりしませんもの」
ふふ、とサクラはほほ笑んだ。
「そういうものかね」
「ええ、ヘスティちゃんやディアネイアさん……というか、女性陣は大体そうだと思いますよ。遊びの場所でも、やっぱり見られ方には気を使うんですよ」
俺としては、水着は動きやすければ良い派だ。
だから、その辺りの感覚は少し疎いが、
「確かに、可愛い女の子が可愛い水着を着ていると嬉しくなるな」
そういう気持ちはやはりある。
「はい。私も可愛く思ってもらえるような水着を選びましたからね」
「それは、ここでは着ないのか?」
俺はサクラが選んだという水着を知らないんだけど。
「そうですね。やっぱりリゾート用で選んだので、最初は向こうで見てもらえれば、嬉しいですね」
「ま、それもそうか」
折角、外出用の水着を選び抜いたんだから、外出先で見るのが一番良さそうだな。
「主様も水着を決められたのですよね?」
「まあ、俺は無難な色の、無難なサイズにしたよ」
俺は服装センスに、そこまで自信がない。
だから、アンネが良さそうなものを見繕ってくれた中から、いくつか選んだ。
どれも軽く履いてみたが、動きには全く問題なかった。
というか、むしろ今までの水着以上に動きやすかった。
「そうなのですか。……私も主様の新しい水着姿みたいですね」
「んじゃ、現地についたらのお互い、というか、それぞれのお楽しみってことでな」
「はい! 楽しみにしています」
「おう、俺も楽しみにしているよ」
水着だけじゃなく、リゾートで遊べるという事も含めて、楽しみだ。
なんて思っていると再び、
――バシャーン!
と、温泉が跳ねた。
そして、その数十秒後。
「ダイチ様ー、場所を貸して頂いてありがとうございましたー」
脱衣所から、三人の竜王が出てきた。
「ダイチさんのおかげで、無事、決まったよー」
ラミュロスとアンネはニコニコ顔だ。
どうやら良い感じに水着を選択できたらしい。ただ、
「……」
ヘスティはアンネに抱かれて運ばれているからか、死んだ魚の目を続行中である。
……というか、普段よりもショックがでかそうだな。
いつもの無表情以上に打ちひしがれている感がある。
微妙な差だが、付き合いが長いから分かってしまう。
中で何が起きたんだろうな。
分からないが、まあ、うん。
……そっとしておくか。
話をしたくなったら向こうから話をしてくるだろう。
それに、後半戦も終了したのなら、俺もやることがあるしな。
「……よし、休憩は終わり、と。掃除するか」
「はい、お手伝いしますね、主様」
この後は温泉の掃除をしよう。
そのあとで、ゴーレムの家具を作り上げていけばいい。
……出発予定日まであと二日か。
やれることはたくさんある。
気楽に、準備できることからしていこうかね。





