181.お着換え用
ラミュロスにヘスティの小屋に連れて行っている最中、
「ところで、ラミュロスは旅行の荷物、持ってきてるの? 水着とか?」
ヘスティがそんな事を言い始めた。
そういえば、ラミュロスは丸腰だ。
特にリュックも持っているという訳でもないし、街の方に置いてあるんだろうか。
そう思っていたら、
「え、荷物? 水着? なにそれ?」
なんというか、予想外の方向で回答された。
「……着替えは、ともかく、湖で、どうやって泳ぐつもり?」
「え、そりゃ勿論、裸だよ?」
そして、ある意味予想通りの答えをしてきた。
「おい、プライベートビーチでも全裸は駄目だろ」
流石にそこは駄目な一線だと思うぞ。
「ん、我もそう思う。――ちょっと、買いに出なきゃ、不味いかも。――でも我、服装に詳しくない……」
どうしよう、とヘスティが俺の顔を見てくるが、俺も服装には詳しくないぞ。
「街の服屋とか知らないしな」
タンスには大量の衣服が詰まっているので、俺はそれを着回しているだけだ。
衣服なんてボロボロにならないと新調しない。だから、こっちに来てから買い足したことすらない。
そもそも、ラミュロスのサイズも知らないしな。
「どうしよう。我が街に出て適当に、買う?」
「おう、それで良いと思うぞ」
「ん、分かった。今の服の流行とか我、分からないから、ちょっと不安だけど……」
やってみる、と言いかけた瞬間だ。
「姉上さま~~! 最新の流行について詳しい私を、お呼びですか~~!!」
どこから話を聞いていたのか。
ニコニコ笑顔のアンネが、物凄い勢いで走り寄って、ヘスティに抱きついていた。
アンネが現れた瞬間、次に起きる事態を予期したヘスティは、
「……」
完全に死んだ魚のような目になって抵抗を止めていた。
慣れる以前に諦めたようだ。
「ダイチ様。お久しぶりです~」
「ああ、うん。一日ぶりだな」
「はい。そして姉上さま。最新の竜王である私をお呼びくださり光栄です~」
「……呼んでないけど、今回は、まあいいや。とりあえずさっきの話、聞いてた?」
「はい、水着の件、でしたよね?」
どうやら、本当に聞いていたらしい。
アンネはヘスティを抱きしめたまま、背中に背負っていた袋を下ろした。
「丁度よかったですよ。私が水着を作って持って来ましたので!」
そう言って袋の中から、何枚もの水着を取りだした。
色や形はバラバラだが、かなり大量にあるな。
「えっと、どうしたんだ、これ?」
「はい、折角のリゾートですから水着を新調させて貰おうかと思いまして。姉上さまの服も水着も、前に私が作ったのですからね!」
「へえ、そうだったのか」
それはちょっと驚きだ。
アイテム作りが得意とは知っていたけれども、縫製も出来るらしい。
「姉上さまの分もラミュロス様の分も皆様の分も。向こうで無くした時、替えも必要になるかもしれませんからね! たっぷり作ってきましたよ」
アンネは大量の水着をサイズごとに分けていく。
「これが、姉上さまの分ですよー。私としては、この際どいのとか、良いと思うんですけどー。サイズチェックしませんかー?」
「……我、前のでいい。あと、もう、離れる」
「ああんっ」
アンネの抱きつきから離れたへスティは、よろよろと俺の元まで歩いてきた。
「……これで、とりあえず、大丈夫そう」
「おう、お疲れ」
なんだかヘスティの体力を代償に、ラミュロスの水着を確保したようで申し訳ないが、解決してよかった。
ただまあ、あとで、なにかヘスティに美味しいものでも持っていこうか、なんて思っていると、
「ダイチ様もどうぞ。こちらで用意しておきましたので。サイズチェックしていただけると助かります」
アンネが綺麗な縫製の海パンを手渡してきた。
「おう、ありがとう」
素材は分からないが触り心地はいい。
水着はそこまで持っていないから、こういうのは有難い。
「あとで金を払うよ」
「ああ、いえいえ、支払いは大丈夫ですよ。姉上さまやダイチ様との旅行に行けるというだけで、十分な代価ですから……はあ……はあ……」
アンネはよだれを垂らす程に興奮していた。
うん、ヘスティが俺の後ろでブルブルと隠れているのもなんとなくわかったな。
「まあ、うん。じゃあ、貰っておくよ」
「はい。それと、ダイチ様のは特別製で、強力な魔力を受けても弾けない作りにはしておきましたから。存分に力を振るって頂いても大丈夫ですからね!」
「……待て。水着で魔力を振るったら、服がはじけ飛ぶ可能性もあるのか?」
「薄めの衣服なら、弾ける可能性はありますよ。ただ、私が作った衣服には、そんな心配をされなくても大丈夫ですが」
なるほど、今まで気付かなかったが、魔力で服がはじけ飛ぶ可能性もあったのか。新しい知識が増えて良かった。
そして、新しい水着を手に入れることが出来たのもまた、有難かったよ。





