180.一時的な居候追加
湖への出発は明後日からにした。
急ぐことでもないので、明日一日を準備にあてて、その翌日にゆっくり向かえばいい。
そう思っての日程だ。
「ん、じゃあ、マナリルに伝えておく、ね。彼女に伝えれば、他の竜王とかにも、予定が伝わるから」
そう言って、ヘスティはささっと伝達してくれた。
なんでもマナリルは竜王だけに通じるテレパシーを持っているらしい。彼女が近くに住んでいてくれて良かった。
これで、伝え損ねの問題は無いだろう。
そう思いながら、俺がへスティと共に再び庭作業に戻っていると、
「ダイチさーん、ヘスティー。こーんにーちはー」
ラミュロスが森の方からやってきた。
なんというか久しぶりな気がするが、
「おう、どうした?」
「んとね、さっきマナリルから、ダイチさん達と旅行に行くって話を聞いたんだ」
「おう。ラミュロスも行くのか?」
「うん、お言葉に甘えていくつもりなんだけどね。ただ――当日、起きれなかったら悲しくて困るなあって思って」
その言葉に、ヘスティは渋い顔をした。
「……ラミュロスなら、やる、かもね。起き忘れた、とかで二カ月くらい眠ってたことあるし」
「ひ、酷いよー。ボクも気を付けてるのにー?」
ラミュロスは涙目だが、確かにこののんびり屋の竜王なら寝過ごしとかもやりそうだな。
「でも、その時は走ってくれば、いい」
「う、うん、そうなんだけど。でも、やっぱり皆と一緒に行きたいから。――だから、出発まで、ヘスティの家にいてもいいかなって、ダイチさんとヘスティに聞きに来たの」
「なるほどな」
確かにヘスティと一緒に暮らせば、起き忘れる、という事は無くなるだろう。
ヘスティは真面目だし、約束の時間に遅れるタイプじゃないからな。
……まあ、偶に、ヘスティはヘスティで抜けている事もあるが……。
眠らないでいたり、ボーっとしていたりすることはある。
けれど、ラミュロス一人でいるよりは安心できるだろう。
色々と頼りになるのは確かだしな。
「ど、どうかな? ダイチさん」
「俺は別にかまわないけど、ただ、この場合聞くべきはヘスティに、じゃないのか? 泊まる所は、ヘスティの小屋なんだし」
そう言ってへスティに聞くと、彼女はこっくりと頷いた。
「ん、アナタがそう言うなら、我も、大丈夫」
「ほ、本当?!」
「でも、迷惑かけちゃ、駄目だからね。竜化とか、禁止だし。寝ぼけて暴れるとかしたら、思い切り叩きだすよ?」
「う、うん、分かってる。――でも、ありがとうね、ダイチさん、へスティ」
ラミュロスは嬉しそうに微笑んだ後で、俺の目を見てきた。
「あ、それと。お泊まり料金として、ボクの鱗を渡すね」
「え、ラミュロスの鱗ってあのでかいのだよな?」
温泉の浴槽用に使ったっきりだ。
それ以降、新しいものは手に入らなかったんだが、確かかなり良い素材だったな。
「うん、そうだよ。大きいから外に置いてあるけど、すぐに持ってくるね」
「いや、ありがたいけれど。そんなに鱗をポンポン渡していいのか?」
ヘスティもそうだが、身を削ってまで鱗を貰っても正直困るんだが。
「うん、最近また生え換わりそうでね。その鱗だから大丈夫だよ。……正直、その辺に捨てる事も出来なかったし。加工出来そうなの、ヘスティとダイチさんしか知らないから」
「そうなのか?」
あの街にも鍛冶師とかいるだろうし、出来る奴はもっといると思っていたんだが。
「ん、かなり難しい。堅いし、大きいからね」
「そうなんだよー。生え換わるたびに街の外に行って処理しないといけないから、街中での生活は凄く大変なのー。でも、今回はダイチさんたちが有効活用してくれるから、凄く有難いよ。だから、一杯貰って下さい、ダイチさん!」
ふむふむ、まあ、くれるというなら貰っておこう。
なんだかんだ良い素材である事には間違いないんだ。
……ラミュロスの持ってくる素材は、肌触りが良いからな。
使い道は結構ある。
今日明日の時間で作る家具に利用しても良いかもしれない。
なんにせよ、タイミングが良くて何よりだ。
「んじゃ、まあ今日からちょっとだけよろしくな、ラミュロス」
「うん、よろしくね、ダイチさん、ヘスティ!」
こうして、俺の家に客人が一人増えたみたいだ。





