177.携帯できる戦力(備品)
昼間。
温泉への機能追加を終えた俺が、庭で別作業をしていると、エプロンをつけたサクラがやってきた。
「主様ー。お昼ご飯できました――っと、まだ作成中でしたか」
「ああ、いや。今終わった所だから大丈夫だ」
「これは、椅子を作ってらしたのですか」
サクラの言うとおり、俺は温泉近くに置く椅子を作っていた。
樹木で出来た、割と大きめの椅子だ。
風呂上がりにゆったり休める場所は必要だからな。
「普通の椅子じゃなくて、しっかり倒せるように作ったぞ」
俺は作った椅子に自ら座る。
クッション性のある樹木で作った為、尻のあたりに良い反発が来る。
……グラグラしたりしないし、いい椅子になってくれた。
そう思いながら、身を揺らす。
すると、背もたれが一段階、ぐっと下がった。
「ああ、リクライニングチェアだったんですね」
「寝れる椅子が欲しいなと思っていたんだよ」
用途は風呂上がりだけじゃないしな。
最近は庭に人も来るようになったし。
幾つか椅子を作っておくのもいいだろう、と思って作ってみたんだ。
「そうだったのですか。――っと、椅子の下にあるのはゴーレムの手足ですか?」
「おう、やっぱり気付くか。この椅子そのものがゴーレムなんだよ」
普通の木で椅子を作る事も出来たのだが、リクライニングのバランスが意外と難しかった。
段階的に背もたれを下げる機構など、知識が足りていないのもある。
だからこそ、体を安定させて寝かせるためには、ゴーレムを椅子に変形させた方が楽だった。
ウッドアーマーの技術もそれなら応用できるしな。
「細かな機構が良く分からなかったしな。これで出来てくれて助かったが」
「なるほど。確かにゴーレムなら自動で体に合わせてくれますからね」
椅子から立ち上がって元に戻るように命令すれば普通のウッドゴーレムになるし、その逆も可能だから、普通の椅子よりも用意がしやすいんだよな。
それに、体重をかけ過ぎても後ろにひっくり返ったりすることもないしな。
「流石は主様です。ゴーレムの新しい利用法を思いつくとは」
「ん、我も、そう思う。ゴーレムに座るって言った時は、何を言っているのか分からなかったけど、こういう事なんだね」
そして俺の横では、ヘスティも椅子の試作品に座っていた。
というか完全に寝ころんでいた。
頭のてっぺんから足の先までが、ゆるく反った椅子の上で脱力している。
「そっちの感じはどうだ?」
「ん、寝心地、いいよ」
ヘスティが座っているのはリクライニングというよりは、ほぼベッドだ。
俺の体でも横になれるくらいには大きい。けれど、これも元々はゴーレムなので、収納はとても楽だったりする。
「そう考えると、本当に便利だよなあ。ゴーレム化すれば、自立移動も出来るし」
ゴーレムだから、望んだ位置まで自分で歩いてくれる。
持ちも運びもせずにいいのだから、配置だって自由自在だ。
「ん、本当に、アナタの頭は柔軟。移動してくれる家具は、便利だね」
「まあな。でも俺は柔軟っていうか、ただ、楽したいだけだぞ」
そんな考えで、この移動家具も出来たんだからな。
……でも、そうだな。
不意に思いついた。
家具がゴーレムとして移動できるなら、
「今度の旅行にも持っていけそうだな」
「あー、確かにそうですね」
湖の方にどんな設備があるのか分からないけれど、ゴーレムを数体連れていくだけで、とりあえずの休養施設は作れる。
ならばそれ用に、設備を作っておくのもいいだろう。
「よし、今度の旅行用に、何か試作するか」
椅子だけじゃなくてテーブルとか、雑貨類に変化できるようにしてもいいな。
ゴーレム一体から色々と利用法が広がれば、旅行もしやすくなるだろうし。
「わー、いいですねえ。私もお手伝いしますね、主様」
「おう、よろしく。――ま、その前に腹ごしらえをさせてもらうけどな」
流石にモノを作ったら腹が減った。
まずは食欲を満たそうか。
「ふふ、了解です。そっちも今、準備しますね。ヘスティちゃんもこちらへどうぞ」
「ん、ありがとー」
そうして俺は昼飯を食べた後、旅行用の備品ゴーレムを試作していった。





