176.風呂場の精霊
翌日、俺は四大精霊と共に温泉の前にいた。
「さて、じゃあ、やってみるか」
「ふー」「すいー」「しゃー」「ぐうー」
四大精霊は楽しそうに温泉周りをグルグル回っている。
「なんだか怪しい儀式をやるみたいだな」
「ん、まあ、興奮してるね」
ノリノリで協力してくれるというのであれば、それに越したことは無いんだけどさ。
「んじゃ作るか」
「分かった。手伝う」
そうして、まずはへスティと二人、風呂の浴槽を複数作っていく。
今回の浴槽は竜の鱗製ではなく、普通に樹木だ。
そっちの方が色々と組みこみが楽だし、取り外しも取りつけも実験的に出来るからな。
「それじゃあ、湯も貯めたことだし。水と風の精霊は壁面に力をいれておいてくれ」
「すいー」
俺の指示通り、精霊たちは浴槽の壁面に力を充てんし始める。
すると、精霊の力は、湯の中で発揮された。
――ボココッ
と、浴槽の中に水流と気泡が出来あがっていく。
そして気泡は水流に乗って、渦を巻いて、水面へと浮かんでくる。
「ん? 凄く泡立ってるけど、大丈夫?」
「おう、この泡が良いんだよ」
浴槽の中に手を突っ込んだら、いい感じの抵抗と泡の弾力があった。
これに揉まれれば気持ちいいと分かるくらいの感触だ。
……ジェットバスが出来るんじゃないかと思ってやってみたけど、本当に出来るとはな。
精霊たちは楽しそうに力を振るっている。
彼らにとっては遊びみたいなものなので、負担にもならないようだ。
俺としても指示出し一つで、こんな風呂が出来るなら有難い話だ。
「んじゃ、ヘスティ、試してみてくれ。足だけでも手だけでも良いから」
「りょ、了解」
ジェットバスを知らないらしいへスティは少し戸惑いながらも、泡立つ風呂に足を突っ込んだ。
そして、感触を味わうこと数秒、
「ん……くすぐったい。けど、これはこれで、いいかも」
頬を緩めて気持ちよさそうにしている
反応は良好だ。
なら、これは採用だな。
「んじゃ、次。土の精霊と炎の精霊、頼む」
土の精霊が平べったい岩を作りだし、地面に並べる。
そこに炎の精霊が軽く力を振るう。
すると岩が程よい温度を持つようになった。
手のひらで触れると、ジワリと皮膚を温めてくる。
「温度はこんなもので良いから、あとは寝転がりやすいように、樹木で出来たシートを敷いて、と」
これで岩盤浴用の場所は完成だ。
軽く寝転がってみると、全身にほのかな熱が来る。
熱すぎず、それでいて冷たくは無い。
絶妙なバランスだ。
「うん、これはこれでいいな。ヘスティはどうだ?」
「ん、あったかい……ね。でも、これもお風呂なの?」
「多分、一種の風呂だな」
詳しい知識があるわけではないが、温まって汗をかけるのは一緒だし、多分風呂だ。
今は気温の関係で露天にしてある。
だけど、あとあと小屋を作っておけば、どんな季節でも利用もしやすくなるだろう。
……本当は泥ブロとかも考案してたんだけどな……。
温泉と土の精霊の力を上手いこと混ぜて風呂にしてみようと思ったのだが、泥の管理が面倒そうだったので、考え直す事にした。
その結果、岩盤浴になったのだが、やはりこっちの方が管理が楽そうだし、使い勝手も良いだろう。
「精霊の力を混ぜて使ってみると、本当に出来ることが増えて面白いな」
「ん、まあ、そうだね。ちょっとおかしいのは、混ざっているのが四大精霊の力だってところだけど」
ヘスティは岩盤に腰掛けながらそんな事を言ってくる。
おかしいと言われても、俺の精霊の知り合いはサクラと四大精霊くらいだから仕方ないと思うんだよな。
他の精霊の知り合いがいれば、そっちに力を借りたかもしれないけれど。現状、いないから仕方ない。
四大精霊も楽しそうだしな。
「ん、……四大精霊の力を作ってお風呂を作っている人は、今にも先にもアナタだけだと思うから、しっかり肌で味わっておく」
そう言って、ヘスティは岩盤にくてっと横たわった。
結構気に入ったらしいな。
そんな感じで、四大精霊の協力の元、風呂場に二つほど機能を追加できた。





