174.予定決めの食卓
夕方。
水着から着替えて家に戻った俺は、
「すいー」
何故か水の精霊にまとわりつかれていた。
「えっと……? これは何をされているんだ?」
ぺたぺたと全身を触ってきている。
「ん、いつもと違う魔力の感じがするから、確かめているんだと、思う」
「違う魔力の感じ?」
「湖で泳いだでしょ? そこで、カトラクタの魔力を少し取りこんでいると思うから」
「へー、そんなこともあるんだな」
確かに湖では基本的にカトラクタに支えられて楽な姿勢をしていたけれども。
「カトラクタは水の精霊に近いし、それと遊んでいたから。ちょっと羨ましがっているんだと思うよ?」
「すいー」
ヘスティの言葉に頷くように、水の精霊は声を上げ、そして頷いた。
「水の精霊とは温泉でよく遊んでいたんだけどな。また遊ぶか」
「すいー……!」
俺の言葉に嬉しそうに頷いた水の精霊は、そのまま手を振って離れていった。
「……あの、温泉で遊ぶって、この前、温泉を柱上にしていた、あれ?」
「そうそう。あいつ、温泉に溶け込んで形を変えるのが好きらしくてな」
それで遊ばせていたら、間欠泉みたいに膨れ上がってしまったことがあった。
庭全体がびっちゃびちゃになって、洗濯物を取り込んだ後にやっていて良かったと思ったものだが、
「……あれ、遊びじゃなくて、何かの迎撃システムかと思った」
「え? なんで?」
特に竜とかが襲ってきたわけでもなかっただろうに。
「周りにスライム系のモンスターが近づいていた、よ?」
「……マジ?」
「ん、気付いてなかったなら、いい。温泉の散らばりを受けて、スライムたちも逃げていったから」
ううむ、そんな事件があったとは。
全く気付かなかったぞ。
まあ、問題ないなら良かったんだけどさ。
「スライムってそんなに定期的に来てるのか?」
「やっぱり新しく生まれたのは、コントロールが効きづらいから。アナタに恭順しているモンスターも、多いよ」
あれ、待ってくれ。また新情報が出たぞ。
「俺に恭順している奴? 人狼とか、戦闘ウサギ以外で、そういうのがいるのか?」
「そうだよ。明らかに敵意のないモンスターとか、アナタを見て帰っていったりするし。アナタの敷地内に入ろうとしている奴を防ごうとしたり、してたよ?」
「マジかー」
まさかそんな事態になっているとは思わなかった。
「というか、なんでヘスティはそんなに詳しいんだ?」
「んとね、いつもアナタが寝ている時間に、そういうのが来ているから。我、起きてるし。あと、恭順しているモンスターは、アナタが寝ている時の方がここが危ないって分かってるから、全力で止めてる」
確かに寝ている時は自動で迎撃するようにシステム化してあるけれど、そんな協力者がいただなんて思わなかった。
「……まあ、イノシシとか、相変わらず、アナタを敵視するのも、いるんだけどね」
「いや、あいつらは、もうリンゴの赤い部分を見たら突っ込んでくるものだと思ってるよ」
しかし、いつのまにかモンスターの一部が恭順しているとは。
防衛が楽になってくれて有難い、と思っていると、
「姉上さまー。先に行っちゃうと、アンネ悲しいですぅ~」
「別口の侵入者が来たな」
「ん、そうだね……。これは止められない……むぎゅ……」
アンネがヘスティに抱きつきに来た。
ただ、来客したのは彼女だけではなく、
「はあ……はあ……ご、御免なさい、ダイチさん。止めたんだけど」
「あー、気にするなマナリル。いつものことだ」
マナリルもやってきていた。
そして、彼女たちがやってきた段階で、
「主様ー。ご飯の準備、出来ましたー」
サクラの夕飯の支度も整ったらしい。
サクラは料理を持って、庭のテーブルにどんどんと運ばんでくる。
「おう、いつもありがとな、サクラ」
「いえいえ、今日は沢山運動しましたからね。沢山食べませんと。皆さんもどうぞ」
「ありがとうございます、サクラ様!」
「今晩もご相伴に預かるわね、サクラさん」
そうして、竜王たちも席に付く。
この食卓の人口の半分以上が竜王になっているが、まあいつものことなので気にしないでおこう。
「んじゃ、武装都市への出発日時を適当に決めながら、飯にするか」
「はーい」
そうして、俺たちは食べながら、後日の計画を立てることにしたんだ。





