173.湖の誘い
陸に上がった俺は、アテナとカレンから話を聞いていた。
「朝からダンジョン修行をやっていたのか」
よく見ればアテナの体はボロボロだ。
「大変そうだな」
「ううん、大丈夫だよ。ダイチお兄さんに会えたらなんだか元気が湧いてきたし」
「ええ、私もアテナ王女に同じく、です」
カレンはそう言って俺の事をめちゃくちゃまっすぐ見てくる。
相変わらずの力強い目線だな、と思っていると、
「ところで、ダイチお兄さんは何をしていたの?」
アテナがそんな事を聞いてきた。
「ん、ああ、普通に泳いで遊んでいたんだよ。暑いからな」
「遊んでいたって、この湖で?」
「そうだが?」
何かおかしなことを言っただろうか。
「念のため言っておくが、ヘスティたちも遊んでいたぞ」
今も、岸に上がっている俺たち以外の皆は泳いでいるし。
「う、うん、そうだね。竜王さんたちは、泳いで遊べるけど……そっか。やっぱりダイチお兄さんも泳げるんだね」
なんだ。俺の事をカナヅチか何かと思っていただけか。
「まあ、多少は泳げるさ。俺も色々な所で泳いできたから」
「あ、う、うん。そうだね」
なんだ、またアテナの顔が変な感じになったぞ。でもまあいいか。
特に問題はなさそうだし。そう思っていると、
「しかし、ダイチは、コーティングで潜っていましたが、なぜダイチ程の人がコーティングを使っていたんです? どのような水の中でも泳げるでしょうに」
と、カレンが首を傾げてきた。
「いや、泳ぐっつーかな。俺は水中で息する方法を聞いたら、コーティングが良いって聞いたんだよ」
「ああ、なるほど。それなら納得です」
カレンは頷くけれども、それ以外に使う要素があるのか、と俺が首を傾げたくなるな。
「ともあれ、水中呼吸をする必要があったということは、今後深い所に潜る予定でもあるのですか?」
「あー、まあな。今度、武装都市の湖に行くかもしれないから、その練習をしてたんだ」
そう言った瞬間、アテナの目がキランッと光った。
「あの大きなリゾートに行くの!? いいなあ、私も行きたい!」
「リゾート?」
「うん、そうだよ。武装都市の湖は慰安旅行先として人気なんだよ」
「へー」
そうなのか。初めて知った。
……でも、人気なのか。
「あんまり人が多すぎる所に旅行したくは無いんだよな……」
「あ、それなら大丈夫だよ。私たち王家のプライベートビーチみたいなところがあるから、そこを使えば、気持ちよく入れると思うの」
マジか。そんな物を持っているのか。
流石は王族だな。
「だから、お姉さまに、ダイチお兄さんがお出かけしようとしている事、お話してもいい?」
「ディアネイアに?」
「うん、お姉さまも最近大変そうだから、遊びたいだろうし。多分、許可はくれると思うんだ」
そういうものかね。
ならば、頼むだけ頼んでみるか。
「んじゃ、お願いするわ、アテナ」
「わーい。分かったー。じゃあ、ちょっと連絡してみるねー」
そんな楽しげな表情と共に、アテナはカレンと共に去っていった。
しかし、リゾートのプライベートビーチ、ね。
湖なのに、案外凄い所なんだな。
なんて考えていると、
「ああ、少し上がっただけであっついわ」
上空からジリジリと太陽が照らしてくる。
汗が浮かんできてしようがない。
だから、俺は湖に再び飛び込み、再び気持ちよく泳ぐことにした。





