―side カレン&アテナー 似たもの姉妹のダンジョン修行
アテナはその日、朝からダンジョンへと潜っていた。
そのダンジョンは浅い地下水脈と連結しており、いたるところから魔力を含んだ水が噴出していた。
腰元まで水が浸かるという環境で、アテナは小走りしながら奥へ奥へと進んでいた。
「はあっはあっ……よ、ようやく、モンスターを倒しながら動けるようになったよ」
そして彼女の後ろには、易々と水の中を歩くカレンの姿があった。
「おめでとうございますアテナ王女。一歩前進ですね」
「うん。見守ってくれててありがとうね、カレン。……移動しながらの戦闘がこんなにも大変だなんて思わなかったよ」
アテナは今まで、魔法の威力を高める事だけを練習してきた。
だがダンジョンに潜るようになってから、それだけでは駄目なのだと気付く事になった。
「お姉さまとか、簡単にモンスターとかを退治しているけど、難しいことだったんだね」
「そうですよ。ディアネイアは竜を撃ち落とせるレベルの力を持っていましたから、人間の中では抜きん出ているくらいです」
「うん、見習わなきゃね」
カレンの言葉に頷きながら、アテナは歩を進めていくが、一歩一歩が重い。
ただでさえ、腰まである水のせいで体力を消耗するのに、その水が魔力を含んでいるのが曲者だった。
「……それに、魔力の入った水がこんなにも重く感じるなんて、改めて驚きだよ」
「普通の人ならば、水の中の魔力に酔ったり、圧迫されたりで、半身を浸けた時点で動けなくなってもおかしくありませんから。……アテナ王女も随分と強くなりましたね」
言われて、アテナは最初の頃、このダンジョンでまともに走れもしなかった事を思い返す。
水の中にある魔力に体が反応して、強張らせたり、また過剰に魔力を吸収しようとしたりして、大変な目にあった。
「こういうダンジョンがない場合、安いポーションを大量に買い込んで水場を作り、その中で訓練して貰う予定だったのですが、やはり自然のものが一番ですね」
「あはは……いきなりだったから、動けるまでしばらくかかったけどね」
今でも気を抜くと足を取られそうになるし、本当にダンジョンとは怖い場所だとアテナは思う。
「というか、この中で自在に動ける人っているの? お姉さまとかは大丈夫そうだけど」
「ディアネイアは大丈夫ですね。また、私たちのような人でないモノであれば、それなりいるかと」
「それって、竜王の人たちとか?」
「はい、私たちからすると普通の水と殆んど変わりありません。あとは……、私たち以上のお方であれば、自在に動くのは簡単でしょうね」
カレンは虚空を見上げて言った。
その動作だけでも、彼女が誰を思い浮かべているか、アテナには分かった。
「あー、ダイチお兄さんとかは平気そうだよね。この前も、凄い魔力のジュースを持ってきてくれたし」
「あれを常飲して平然としていられるのですから、本当に規格外ですよ」
そう言った後で、カレンは両手を見て、ぎゅっと握った。
「なんだか話をしていたら、ダイチに会いたくなりますね。そろそろ禁断症状が出てそうです」
「あはは。カレンは夜な夜なダイチお兄さんの事を思い出して昂ぶってるもんね。ちょっとアンネさんみたい」
言うと、カレンは少し渋い顔をした。
「あの子と比べられるのはなんだか変な気持ちですが、まあ否定はしません」
第一王都にいた頃はいつも冷静沈着だったカレンが、ダイチの力を浴びてからというもの、とても表情が豊かになった。
とげとげしさも無くなり、凄く丸くなったように思える。
……丸くなったからと言って厳しくないというわけではないけれど。
アテナとしては、好ましい変化だと思う。それに、
「うん、カレンの気持ちはわかるよ。私もダイチお兄さんに会いたいもん」
あんなに強くて優しい人が近くにいるのに、憧れている人に、会えないというのは辛い。
でも、この修行を中途半端に投げ出しちゃダメなのも分かっている
……そんな情けない状態のまま会いに行くわけにはいかないからね。
だから、強くなるためにもやりきろう、とアテナは思う。
「……一応、このダンジョンの奥は、森につながっているんだっけ?」
「はい。かなり進んだ先ですが」
「それじゃあ、頑張って進めば、ダイチお兄さんに会えるんだね」
そう思うと、やる気が復活してきた。
ふう、と息を吐いてからアテナは立ち上がる。
「さあ、休憩終わり。カレン、私はもうちょっと、前に進むね!」
「ええ、私もしっかり見守っていますので。頑張ってください、アテナ王女」
そうして、アテナとカレンはダンジョンの奥へと進んで行く。





