167.避暑のやり方
俺は自宅の裏手に来ていた。
そこにはロープで区切られた土地があり、地面からは黄金色に光る稲が生えていた。
「玄米を育ててみようとやってみたけど、出来るもんだな」
「はい、水が沢山あると、お米もいい感じに育ってますね」
コメのストックが少なくなり始めたので、なんとなくに育ててみようと思ったのだ。
一応、この地域にも米に似た植物はあるし、街で売っているのも確認した。
もっと言えば、人狼が届けてくれるので問題は無いのだけれども、
……まあ、自分で育てられた方がいいよな。
そう思って、水に玄米を突っ込んで発芽させたものを裏手の土地に埋めた。
それから水を引き込み魔力を使ったら、あっという間に実がなったんだ。
……リンゴとは違う感覚だったなあ。
樹木を育てるのと稲を育てるのだと、力の込め方が微妙に違った。
とはいえ、難しくはないのだけれどもな。
田んぼと言えるほどしっかりした農地は無くても、水と土地があれば、育ってくれることが分かったし、実験としても良い結果が出てくれた。
既に一度借り入れをして、味も確かめたが、普通に美味しかったし。
「主様が作られたお米、甘くて美味しいんですよねえ」
「まあ、新米だしな」
ちょっと時間の経った米と比べれば、味は違う。
更に水の入れ方、魔力の込め方でも味が微妙に変わるのは確認済みだ。
魔力が豊富な水を入れれば味が濃くなったり、逆に水の量を調整すればすっきりした味わいになったりする。
その細かな変化が面白くて、ここ数日で大量に作っている。
そして部屋の一角を穀物用の倉庫にして、ここで収穫したものをしまってある。
けれど、その倉庫もそろそろ一杯になる。
「んじゃ、こっちも収穫して、一旦コメの育成は終わりにするか。取れ過ぎても食べるのは俺たちだけだし」
取れ過ぎるとリンゴのように置き場所や使い場所に困る事になりそうだしな。
「はい。では、サクッと刈って倉庫にしまっておきましょう」
そうして、俺はゴーレムと共に稲刈りをしていたのだが、
「ふう……暑いな」
昼前に終わるころには額に汗の玉が浮いていた。
「主様、こちらにお茶がありますのでどうぞ」
「サンキュ。……最近は本当に、気温が上がってきてるなあ」
サクラから受け取ったお茶で喉を潤した傍から汗が浮かんでくる。
本当に暑い。
湿気はそこまでなくて、カラッとしているから気持ちのいい汗ではあるんだけどさ。
……太陽が元気よく照らしてくるからなあ。
と、空を見上げながら、丸太椅子に座って休んでいると、
「あ、手伝おうとしたんだけど、終わっちゃった?」
庭の表の方からヘスティがとてとてと歩いてきた。
「おう、ほとんどゴーレムがやってくれたんだがな。俺はちょっとやっただけで汗だくになっちまったけど」
「んー、この地域では、最も熱くなる時期、だからね」
「そうなのか。この辺りの季節については疎いからな」
先月も暑かったが、今はそれ以上に暑い。
もう少しここら辺の気象状況についても教えてもらった方が良さそうだな。
なんて思いながらヘスティを見ていると、彼女は懐から小さなバッグを取りだしていた。
「ヘスティ? どこかに行くのか?」
「ん、平原の湖に水浴びに行く。これは、その道具。……それで、良かったら一緒に行こうかと、思って。どう?」
「平原の湖ってカトラクタとマナリルがいる所だよな」
というか、俺が作ってしまった場所だ。
確かにあそこは、湖としては小さいけど、少し大きめのプールくらいの大きさはある。
……ウチの水風呂よりは大きくて、深さもある、か。
ならば、軽く泳ぐこともできそうだ。
「でも、勝手に使っていいのか?」
カトラクタが住んでいるし、そんな所で水浴びしてもいいんだろうか。
「ん、大丈夫。マナリルから許可は取ってる」
「へえ、準備が良いな」
事前に許可が取れているなら問題ないな。
「よし。行くか、サクラ」
「あ、了解です主様。確か家の押し入れに水着が入っていたので、ささっと取ってきますね」
そう言って、サクラは家の方まで飛んでいった。
「ああ、ありがとうよ、サクラ」
「いえいえ、私も楽しみですから」
そして、俺たちは水着を持って、湖まで涼みに行くことにした。





