166.アイドルな隣人
カトラクタの騒動から数日後。
俺は以前使ったウォーターゴーレムを一度解体していた。
「もう少し上手いこと造形と利用が出来るよなあ」
ジュースサーバーゴーレムはよくできたと思うけれど、まだまだ応用は出来そうだ。
……樹木で作ったガワを浴槽代わりに温泉のゴーレムを作るとか、やってみるかな。
そうすればいつでもどこでも風呂に入れて良いだろう。
特にこの暑い時期だと、少し運動しただけで汗ばむし、季節的にもちょうどいい。
だから、俺は温泉ゴーレムを更に良いものにしようと、改造に勤しんでいたら、
「ダイチさん。こんにちは」
「おう、マナか。こんちは」
森の方からマナリルが尋ねてきた。
「これは、新しい機動兵器? ……相変わらず凄いものを作っているわね」
「いや、ただの風呂なんだけどな……」
兵器にするつもりは一切ない。
「そ、そうなの。お風呂かあ」
マナリルは目を見開いて、ゴーレムを見ていた。
兵器に間違えられるのもなんなので、外見には気をつけておこうと思いつつ、俺はマナリルを見た。
彼女は、いつものような軽装ではなかった。
「というか、マナはどうしたんだ、そんな大荷物を持って」
彼女は大きな袋を背負っていた。
「ああ、コレ引っ越し用の荷物よ。ほとんど精霊に任せて運んでもらっているけれどね」
「引越し?」
「ええ、カトラクタがいなくなっちゃったから、武装都市の湖底神殿に住んでいる必要が無くなったのよね。だから居を移そうと思って」
そういえば、カトラクタを封印しておく為に、武装都市に留まっていたんだっけか。
その封印対象がいなくなれば、留まり続ける理由も無くなるのか。
「って、荷物を持って来たってことは、既に住む場所は決めてあるのか?」
「一応、ね。平原にできた湖のほとりに住むつもり。ほら、ダイチさんが作ってくれた舞台の裏手に、個室も付いていたでしょう?」
確かに、ゴーレムの待機場所とか、休憩所として小さな小屋みたいなものは作ったけれどさ。特に家具もないし、イスとテーブルがあるだけの小屋だぞ。
「あそこに住めるのか?」
「勿論よ。あそこはかなり居心地がよかったし、ちょっと改造すれば日常生活も出来そうだったもの。――それにあそこに住んでいれば、新しいカトラクタの管理がとてもし易いから」
「あー、なるほどな」
リンゴのコアで生まれ変わったとはいえ、カトラクタが平原の湖にいるんだよな。
あれの扱いはどうなるんだろうと思っていたけど、
「ディアネイアは、マナに頼んだのか」
「頼んだというか、ディアネイアが観察するって言ったから、どうせなら私がやるって言ったのよ。あの状態になったら悪いことはもう起きなくて、楽なものだしね」
ふふ、と、マナリルは口元をほころばせて湖のある方向を見やる。
「楽しそうだな」
「うん、楽しいわよ。地上で普通に暮らせるようになったのは数十年ぶりだからね。それまでずっと湖の神殿とライブ会場を行ったり来たりするだけだったし」
数十年単位で水の中で暮らしていた、と聞くと、改めて彼女が人外の竜であることを思い知る。
「それで、ダイチさんとはお隣になったわけだし、よかったら遊びに来てね。お茶くらいは出せるようにするから」
隣……というには森一つ離れているけれども、近いことには変わりないしな。
それに、一度作った舞台をそのまま放りっぱなしというのも気分が悪い。
「そうだな。軽いメンテや補修や改装くらいはさせてもらいたいから、近いうちに向かわせて貰おうかね」
「ん、ありがとう、ダイチさん」
マナリルはそう言ってほほ笑んだ後で、もごもごと口元を動かし始めた。そして、
「それと……何度も聞いてしまって悪いんだけど。偶に、私もこっちに遊びに来させてもらって歌わさせてもらっても、いい? 平原にも舞台はあるけれど……その、思いっきり歌えるのはここだけだから」
消え入りそうな声で言ってきた。
そこまで気遣いしなくてもいいというか、この前も同じような事を聞いてきただろうに。
「俺の答えは前と同じだよ。非常識な時間じゃなかったら、好きに来てくれていいさ」
「よかった……! ――これからもよろしくね、ダイチさん!」
「ああ、よろしくだ、マナ」
こうして、俺には竜王でアイドルな隣人が出来たようだ。





