162.一仕事の後の清涼剤
「コアの破壊を確認しました。終わりましたね、主様!」
「ああ、終わった……けど……」
衝撃と光を放ち終わった右腕を下ろして、一息ついた俺は、背後を見る。
そこには大穴があいていた。
「反動で割と深い穴が開くとは思わなかったな」
威力が物凄かったように、余波も凄かったらしい。
俺を中心して、円形に地面がえぐれている。
というか、俺の足元の地面も踏み割れている。アーマーは無事なんだけどな。
「地面の方が耐えきれなかった部分もあるんでしょうね」
「なるほどなあ……」
俺から半径二十メートルくらいが、隕石の着弾地点みたいに凹んでいる。
穴の深さも数メートル以上あるしな。
平原の水がその穴に流れているのに、全然溢れる様子が見えないから、かなり掘ってしまったみたいだ。
「反動対策は万全だったんだけど、発射台も考えなきゃ駄目だな、これ」
なんて呟いているとディアネイアが来た。
彼女の顔は毒を食らったからか、軽く青ざめていた。
「相変わらず、凄い威力、だな、ダイチ殿……」
「なんつーか、結局穴を開けちまってすまないな」
「い、いや、構わないでくれ。この辺りの平原にも水場が欲しいと思っていたからな。――ああ、小さな湖が出来てたと思えば、嬉しいものだ!」
ディアネイアは力強く言ってくる。
まあ、湖というには毒々しい色をした水しか入ってないけどな。
「というか、毒の水ってコアを破壊しても浄化するまで消えないんだな」
なんて俺が呟いていると、
「そう。だから、カトラクタの毒水は厄介。……本当なら、厄介だった」
ヘスティがやってきて答えてくれた。
彼女も毒を浴びていたようだが、比較的元気そうだ。
「でも、今回はアナタが思い切り吹っ飛ばしたから、もう大丈夫。あとは、既存の毒水を片付けるだけ。だから、毒の水が集まってくれているのは有難いと思う」
「うん、ありがとー、ダイチさん」
ヘスティに続いて、俺の方に来たのは、マナリルだった。
「体の方は大丈夫か」
「お陰さまで。ダイチさんが持ってきてくれたお水とジュースですっかり回復したから……最後の後片付けをするわ」
「後片付けって、歌か」
「そう、私のライブによる浄化よ。埋め立てるにしても、使うにしても、綺麗にしなきゃ」
そう言って、彼女は舞台の上に戻って、マイク型の杖を構えた。
「観客は少ないけど、大丈夫か?」
観客席にいた騎士団はほぼダウンしている。
立見席にいた冒険者もスキンヘッドの男が立ちながら気絶しているだけで、観客としては役に立たないだろう。
「ええ、もちろん。体調もいいし、……この場にはゴーレム達もいるからね」
カトラクタ戦で消耗したとはいえ、ゴーレムたちは十体くらい残っている。
マナリルの言葉に両手を上げているのもいるし、ノリは良いみたいだけども。
「無機物からでも魔力を借りられるんだな」
「ええ、私はもう大丈夫。――だから、最後の仕上げに、歌うわ。《水竜のブレス》」
そして、マナリルは再び、舞台の上で歌い始めた。
以前も聞いたことがある綺麗な曲が再び、平原に広がっていく。
するとまず、観客席にいたゴーレムたちが薄く光って、その光はマナリルの体に集まっていく。そして、
「こりゃ、すげえな」
大穴に溜まっていた、紫色の水が光を放ち、暗い色が空へと抜けていく。
どんどん透明度が高くなっていき、数秒もすれば透き通った水へと変わる。
それでも歌は止まず、更には、
「ん……? 雨?」
「ああ、霧雨……つーか、さっき打ち上げた水か、これ」
上空に打ち上げてはじけ飛んでいた水が、落ちてきたみたいだ。
ただ、毒々しい色はしていない。
歌の効果で浄化されながら降ってきているようで、キラキラと光りながら、俺たちの頭上に舞い散っていく。
当然、舞台にいるマナリルにもその霧雨は掛かる。
昼間に差し込む太陽の光と、水の光が混じり合う中で、マナリルは優雅に歌っていた。
「あー……すげえきれいだな。歌も、この現象も」
「ん、そうだね」
「私の所でもライトアップなどはしたが、こんな演出には、叶わんなあ」
そうして、平原と森の毒のぬかるみは、綺麗な曲が響き渡ったことできれいさっぱり取り除かれていった。





