-side マナリルライブ-毒の竜カトラクタとその弱点
紫色の水柱はやがて、十メートルほどの竜の形を取った。
「これが、カトラクタ……!」
紫の水の龍。資料に書いてあった造形がそのまま出てくるとは。
舞台に躍り出たディアネイアが、カトラクタを睨みつけていると、
「ガアアアアアアア!」
声をあげて、口腔から紫色の水弾を放ってきた。
狙いはマナリルと自分だ。だから、防護の結界を張ろうとしたが、その前に、
「総員、マナリル様とディアネイア様を防護!」
「はっ!」
客席で聞いていた騎士たちが一斉に集まって、盾を構え、防ぎきった。
何人かは衝撃で吹っ飛ばされたが、それでも、
「おお……!」
その空いた穴を周りの騎士たちが埋める。
こんなときでも、素早く動いてくれる騎士たちの錬度に感謝しながら、ディアネイアは杖を構え、横で歌い続けるマナリルに声を飛ばす。
「マナ殿! 戦うぞ!」
答えは声として飛んで来ない。
歌っているのだから当然だ。ただ、その代わり、
『コアを狙って!』
頭の中に、直接、音が来た。
《エアコンタクト》という通信系の魔法をマナリルが使用したのだろう。
攻撃すべき個所を伝えてくる。
「ああ……。カトラクタの文献を呼んで、弱点は分かっているよ、マナリル殿……!」
ディアネイアもマナリルの言葉に頷いた。
資料を読みこんだことで、ある程度の戦い方は頭の中に入っている。
カトラクタの体には水のゴーレムと同じように、体の核となっている結晶がある。
悪く淀んだ魔力を含んだ結晶らしいが、それを砕けば、体を保ち切れずに倒せると資料にはあった。そして、
「コアは見えている……!」
カトラクタの喉元には、黒く輝く拳大の結晶体が浮かんでいた。
『私が歌っている限り、あのコアは光って反応し続ける。だから、狙って……!』
それだけ言うと、マナリルからの通信は途切れた。
歌に集中するつもりだろう。曲が更に激しく、大きく鳴り響く。すると、
「――オオオオオオ!」
カトラクタはうねって暴れ始めた。
「きょ、曲が効いているぞ!」
「流石はマナリルちゃんの生歌だぜ!」
その様子に騎士たちも歓声を上げる。
どうやら、勢いはこっちにあるようだ。
「ああ、この勢いに乗らせて貰おう……!」
ディアネイアは杖を掲げ集中する。
……相手は水だ。炎の私と相性は良くない……!
だが、ダイチと出会って数カ月。
彼を見続けて彼を目指して修行し続けた自分の力は、上昇している。
その成果を今、解き放つ。
「天の炎よ、阻む壁を全て溶かし、浄化せしめん――《マグナ・フレイム・トライデント》!」
瞬間、杖の先から生まれた、巨大な炎の三つ又槍が一直線に発射された。
「――!」
カトラクタは、水弾で向かい撃つ。だが、それでも炎の槍の勢いは落ちず、
「取ったぞ!」
カトラクタの開いた口から、喉元に突き刺さった。そのまま、炎の槍は内部の水ごと結晶体を燃やしつくした。そして、
「ァ……!」
カトラクタの体が崩れ落ちていく。
どうやら、コアの破壊に成功したようだ。
「うおおおおお! 流石は我らが姫様!」
騎士たちから、再び歓声が上がる。
「勝ったか……!」
強力な魔法を使った反動で疲労が来る。
それでも、目の前の脅威を追い払えた事に、ディアネイアは安堵しようとした。
その時だ。
「――ディアネイア、違う!」
空中から声が響いた。
それは、聞き覚えのある竜王の声で、
「ヘスティ殿!?」
言った瞬間、ヘスティが空中から舞い降りてきた。そして、
「安心するのは早い。そいつは、カトラクタ本体じゃない!」
そんな事を言い始めた。
「ほ、本体じゃない? だが、私はコアを貫いたぞ!?」
「ん、みてた。確かにひとつは砕いた。でも、アレは一つだけを使った分体。――まだ、いる」
ヘスティは崩れていくカトラクタの直下を見た。
そこからは、再び紫色の水柱が立ち始めていた。
「また、来るのか!」
「来る。その証拠に、マナリルの歌、止んでない」
確かに、マナリルは未だ歌い続けている。
考えれば当然と言えば、当然なんだ。
あの程度の一撃だけで倒せるなら、竜王だけでも倒せていた筈だし、資料に残るほど厄介じゃなかった。
「つまり、カトラクタにはコアが複数あって、この討伐を何回も繰り返す必要があるということか」
「そう。カトラクタが怖いのは、攻撃力じゃない。耐久力と持久力だから」
「なるほど。――コアはいくつあるのだ?」
「見ていれば、分かる」
ヘスティがそう言った瞬間、紫色の水柱が、立ち上がった。
先ほど見たものよりも、更に大きくなる。
大きく大きく大きく、育っていく。
そして、ディアネイアの前に姿を現した。
「これが、本体だと、いうのか……?」
「ん、そう。これがカトラクタ。我らが戦って、倒しきれなかった、存在。コアが一個でも残っていたら、復活するから、ね」
そこには、全長百メートルを超える、水の竜がいた。
全身に百を超えるの黒いコアを光らせた竜が現れた。





