156.明日の予定とお楽しみ
久しぶりに杖を使って調子よくゴーレムを作成し続けて、少し疲労していたので、俺は自宅の一階に作った仮眠室で昼寝をしていたのだが、
「……んお?」
開け放たれた大窓から、涼しい風と共に綺麗な曲が聞こえてきた。
綺麗な音ですっきりした頭を傾けて窓の方を見ると、サクラが縁側に座っていた。
その奥にはマナリルがいて、サクラも目を瞑って聞いていたようだが、すぐに俺が起きたことに気付いたらしい。
「あ、おはようございます、主様。お調子はどうですか?」
「程良く全快だ。それで……これは、マナが歌ってたのか。いつくらいに来たんだ?」
「ほんの十数分前ですね。こちらにお越しになられて、楽しそうに歌っておられます」
そうだったのか。森の中に響くような音なのに、うるさくなくて、眠り続けられるとは妙な感覚だな。それに、
「すっげえ寝ざめがいいんだけど、なんだろう、これ」
一時間も昼寝していないのに、八時間睡眠をしたくらいには頭が軽くなっている。
「マナリルちゃんの歌は浄化と沈静の作用もあるみたいですね。だから主様の体で淀んでいた疲労が全て抜けていったのかと。そこに魔力スポットの回復効果が合わさって倍率ドンという感じで」
「……ただの声って言うには凄すぎる効果だな」
まあ、お陰で気分爽快でいいんだが、とサクラと話していると、マナリルの歌が止まった。
「ふう……って、あ、ダイチさん。起こしちゃったかな?」
彼女は起床した俺を見て慌てているが、何の問題もないと俺は首を横に振る。、
「いや、気持ちよく起きれた。ありがとうよ」
「ううん。ここまで音が染みてくれる場所なんて本当にないから、とても楽しくて……。お礼を言わせてほしいのはこっちだわ」
マナリルもマナリルですっきりしたような顔をしている。
彼女が楽しいならばそれが何よりだ、と俺が思っていると、
「おお、いい歌が聞こえていたと思ったら、マナ殿もここにおられたのか」
ディアネイアが森の向こうから歩いて来た。
「ディアネイアか。なんか久しぶりだな」
「うむ……街でのイベント調整に時間が掛かってな。だが、そのお陰でスケジュールが決まったから、お三方に伝えようと思って来たんだ」
ディアネイアはそう言いながら、腰元に指していた紙のスクロールを渡してくる。
それをひも解いて中を見ると、中にはライブについての諸情報が書きこまれていた。
「マナリル・セイレーンによるプロシアライブ。第一部が昼から平原で。第二部が夕方から街で、か。平原の方が先なんだな」
「ああ、明るい方が、危険性も少ないしな」
「……そういや、モンスターもいるよな、あそこ」
普段はヘスティに乗っかったり、テレポートで移動出来てしまう訳だが。
韋駄天や、飛行型ウッドゴーレムの練習時に平原に行くと、大体数体のモンスターは転がっていたりする。
そんな場所でライブして大丈夫なんだろうか。
「ああ、結界を張るので、そこは問題ない。そもそもあの平原もダイチ殿が思いっきり力を振るってくれたお陰で、モンスターが出現しにくくなっているのでな」
「え……?」
出現しにくくなっているって、どうなってるんだ。そう思っていると、横のサクラが頷いていた。
「そうですねえ。主様がいつもウッドアーマーでウロウロしていますから、自動的にプレッシャーが掛かっているので、モンスターは基本逃げてますよね」
「うむ、そのお陰でとても平和になっている。本当に感謝したい」
自発的にやったわけではないんだけど、まあ、平和になっているならいいか。俺の散歩コースでもあるしな。
「ともあれ、マナ殿。平原が先という事で大丈夫だろうか?」
「そうね……。私は、調整ミスはしないつもりだけれど、もし感覚を掴めないまま街で歌ったら被害が出ちゃうから。平原で慣れさせて貰えると助かるわ」
「うむ、よかった。ではこの後、城に帰ってプランの細かい所を打ち合わせさせてくれ」
「了解よ」
マナリルもこのプランには賛成のようだ。
とすると、彼女に飲み物を届けるならば……、
「んじゃあ、俺は平原の舞台に色々と持って向かうとするよ。それでいいか?」
そう尋ねると、マナリルとディアネイアは頷きつつも、二人揃って申し訳なさそうな顔をしてきた。
「ええ……迷惑をかけて御免なさいね」
「うむ、ここまで協力して貰っているのに、満足な礼も出来ず、本当にすまない」
「別に謝られることじゃないよ。俺はそれなりにメリットを享受しているんだ。今日だって気持ちよく昼寝から覚めたしな」
俺の言葉に、マナリルは少し驚いたような目をした。
「……なんというか、私の声だけ聞いて、そんな事を言われたの初めてな気がする」
「ん、そうだったのか?」
「ええ、私が好きに歌ってしまうと威力が高いから。だから、その、――ありがとう、ダイチさん」
マナリルは安心したような笑みを俺に向けてくる。
なんだかほのかに頬を赤くしているし、少し気恥ずかしいな。
「ライブ前ってことで、存分に練習して、喉を慣らすと良いんじゃないか。ディアネイア、もうちょっとマナを借りてもいいか?」
「ああ、問題ない。もしも疲れても、私がテレポートで城まで送るし……私も、マナ殿の歌を聞きたいからな」
「私も聞きたいですよ、マナリルちゃん」
俺達三人から言われて、更に頬を赤くしたマナリルはこほんと息を吐いた。そして、
「そ、それじゃあ、歌うわね……」
静かな昼過ぎの中をマナリルの綺麗な曲が響き渡っていった。
「俺の家が魔力スポットだった件~住んでいるだけで世界最強~」の第一巻が6/24に発売されます。
公式サイトでも情報の方が公開されたので、活動報告の方にも色々と書かせていただきました。
これも、応援して下さった皆様のお陰です。本当にありがとうございます!
とはいえ、まだまだ更新は続けていきますので、引き続きよろしくお願いします!





