155.水でお試し
マナリルのライブ前日となったが、俺がやる事はいつもと変わらない。
普通に昼前に起きて、庭で魔石や樹木や温泉を使って工作をしていた。
すると、ヘスティも起きてきたのか、小屋から出てきた。
そして、俺に一本の小さな杖を渡してきた。
「おっ、これがこの前言っていた杖のスペアか」
白くがっしりした手触りをしているが、俺が今まで使っていた杖よりも小さく、軽いな。
「そう。小さめで、携帯性を重視して、作ってみた。ベルトとかにも差せる」
「おー、そこまで考えて作ってくれたのか」
「予備だから、家にしまいやすいように。それと、外にいるときはいつでも取り出せた方がいいと思って」
確かにな。俺は結構な頻度で杖をぶっ壊すし、外に出るときにこれを保険として持っていても良いのかもしれない。
……まあ、家から離れる事はそうそう無いんだけどさ。
街に行く時とかは、この小さい杖を使った方がいいのかもな。
「あと、緊急時の保険として、呼び出しの術式とかを組み込んで、術者が望んだら一人でに飛んでくるようにした」
「え。そんな便利機能まで付けてくれたのか?」
「ん、まあ、あくまで保険だから一度使ったら術式を入れ直す必要あるけど、出来る」
相変わらずヘスティの技術力は凄い。
今まで以上に安心して外に出れるようになったよ。
「あとは、実際に運用してみて。今壊れたら、作りなおすから」
「オッケーだ。ちょうど、水のゴーレムを整理したかったから、やってみるわ。――ウォーターゴーレム×三」
俺が杖を手に声を飛ばすと、温泉から一体、水飲み場から二体のゴーレムが立ち上がった。
どれも自動的に、コアを取り入れて、こちらまでノシノシと歩いてくる。そして、
「杖は無事、と。日常使いでは問題ないみたいだぞ」
これなら普通に使えそうだ、とへスティを見ると、なにやら難しい表情で水のゴーレムを見ていた。
「今更だけど、アナタは水も操れるんだね」
「本当に今更だな。でも、マナの歌ほどグネグネやるのは難しいけど、イメージして、固体化するくらいはできるようになったぞ」
じゃなきゃ、ゴーレムを作れないしな。
「いや……その、凄く慣れてるから。水を操るのって、意外と難しい」
「まあ、そこら辺はお手本があったからだな。マナとか地下で出てきた奴とかがいたから、分かりやすかったんだよ」
「見ただけで、分かりやすくは、ならないと思うんだけど……そうなんだ」
「おう」
ヘスティは首を傾げているが、実物をじっくり見ていれば、色々分かる事も多い。
魔法はイメージが大切なのだし、実像が頭の中にあれば相当楽になるんだ。
「ん、そこは我も予想外だった。認識を改める。……それで、アナタは今、ウォーターゴーレムをこねているけど、何をしているの?」
「いやな、ウッドアーマーにも応用できないか試しているんだけどな」
先日、ウォーターゴーレムに手を突っ込んでも、想像通りに操れることが判明した。
……温泉で出来たゴーレムに浸かろうとした事で、それが分かった時は驚いたが……。
ともあれ、ウォーターアーマー、もしくは、ハイブリットアーマーとして、運用できないか試しているた
「だけど、中々難しいんだよなあ、これ」
「え? でも、いくつか作っていなかった?」
そう言って、へスティは庭の外れを見た。
そこには、幾つかのウォーターアーマーが並んでいる。
「まだまだ改良するポイントはあるんだよ。一応、使える事には使えるけど」
「一応のラインが高すぎる、気がする。この前も水の鞭でドラゴンを締め上げてたし」
先日、森の方を散歩していたらドラゴンに絡まれたので、水のアーマーでしめ落としたんだが、見られていたらしい。
「力は出るんだけど、精密動作性がイマイチでな。だから、それでも未完成だよ」
腕や足の一部に水を仕込むこともやってるし、このまま実験は続けていくつもりだ。
「そう。……なら、その杖、使ってどんどん作ると、いい」
「え? これ、予備じゃないのか?」
「予備だけど、使いなれておくの、大事。それに直し易い素材だから、壊れたら、言って」
「そうだったのか。――なら、有難く使わせて貰うよ」
「ん、ばんばん使って。そうしてくれた方が、我、嬉しいから」
そんな感じで、新しい装備も貰ったこともあってか、その日の工作は調子よく行えたよ。





