151.精霊と仲よく
マナリルのライブまで残り数日となった朝方。
庭に安置された朝露に濡れるゴーレム達を見て、俺は何となく思った。
……リンゴ以外にも水ゴーレムのコアのバリエーションが欲しいなあ。
現存している水のゴーレムはリンゴをコアにしたものが数体のみだ。
これはこれで、上手いこと動いてくれるのだけれども、作れる種類や道具を増やしておくのは悪いことじゃないだろう。だから、
「ふむ……魔石でも取るかね。ヘスティ、一緒に来るか?」
「ん、行く」
俺は魔石を取ろうかと思って、庭で作業をしていたヘスティと共に、地下に潜っていたのだが、
「ぐー」「しゃー」
入った途端、風と土の精霊が精霊石の山を抱えて持ってきた。
ついでに、この地下の魔石も幾つか取ってきているようだ。
「えっと……使うならこれ使えってことかな?」
「多分、そう、かな」
「……でも俺、こいつらに何も指示、出してないよな?」
魔石が欲しいとか、そういったことは伝えてないんだけど。
どうしてこいつらは先回りして集めていたんだろうか。
「ん、地上では言っていた事を聞いたのかも。精霊の聴覚は自然と混じり合わせることも出来るから。あと、精霊は、主従契約した主が欲しいものを直感的に知ることがある。それで、だと思う」
「へー、そんな能力があるのか」
「しゃー」「ぐー」
こくこくと精霊たちは頷いている。
どうやらヘスティの説明であっているようだな。
「ん、まあ、心を読める訳じゃなくて、ちょっとした欲に反応することがある、というだけだから。直感以上のモノにはならない。今回はアナタの言葉があったから、動いたんだろうね」
なるほど。読心能力ってほど正確でもないのか。
多少は意思疎通が出来るから良いんだけど、いきなり用意されたものだからビックリしたぞ。
ただ、有難いことだったので撫でてやるが。
「でも、ほどほどで良いんだからな、お前らー?」
「しゃー!」「ぐー!」
言いながら頭をさすってやると、精霊たちはすごく嬉しそうに体をくねらせる。
「こいつらって、意外と行動派なんだなあ」
「一度従った人には従順で、力を貸そうとする。どんな精霊も、それは一緒だから、ね。たとえ、暴走している精霊でも、一度従ってしまえば、そうなる」
「へえ」
確かに風の精霊なんかは暴れまくっていたのに、今ではお腹をさらして撫でられ中だ。
以前のとげとげしい姿なぞ一切感じさせないくらいにだらーっとしている。
「不思議な存在だな、こいつらって」
「我からしても、四大精霊がこんな状況になってるのは、とても新鮮。というか見たことない」
「俺はこういう姿しか見たことがないから、その辺は分からんな。というか、ヘスティは昔の四大精霊とか見た事あるんだな」
「ん、割と、……苛烈だった」
ちょっと苦い顔をして言葉を選んでいる辺り、昔は色々とあったんだろうな。
今は小動物チックな感じなので、問題ないだろうけどさ。
「まあ、今は大人しくなって良かったな」
「そうだね。……って、あ、そろそろ手を離した方がいいかも」
「へ?」
会話中もずっと撫でていたのだが、駄目だっただろうか。そう思って、撫でていた精霊を見やると、
「ぷしゅー」
二体そろって、精霊が煙を上げていた。
「えっ……? どうした?!」
顔もかなり赤らんでいるけれど、なにか体調不良か。
「いや、これは……アナタに撫でられ過ぎて、興奮したみたい」
「興奮の反応がでかすぎないか?」
物理的に煙が出てるんだけど。
いや、顔はなんだか幸せそうだけどさ。
「ん、精霊だからね。感情表現も、目に見えるものが多い。それに、体は元気、みたいだよ」
ヘスティはそう言って、精霊たちに視線を送った。
釣られるようにして俺も手元の精霊を見ると、
「しゃー!!」「ぐー!!」
精霊たちは俺の腕に、嬉しそうに纏わりついてきた。
「……好感度が上がったってことでいいのかな」
「ん、多分ね」
地下に潜って撫でただけなんだけどな。
どうやら今回の件で、四大精霊と今まで以上に仲よくなれたようだ。





