144.魔力と竜は止まらない
水のゴーレムづくりをひと段落させた俺は、完成させた水ゴーレムを引き連れて庭に来ていた。
「この辺を通るルートにして、と」
これから水撒きなどをしてもらうためには、場所をきっちり把握しておく必要がある。
だから、ゴーレムを引き連れて歩いていたのだが、
「あ、お、おはよう、ダイチ殿!」
庭の外れの森に、ディアネイアが突然現れた。
「おはよう。こんな時間にどうしたよ?」
「実はヘスティ殿に 用があってきたんだ。……いらっしゃるだろうか」
「いるにはいるが……」
俺は、近くにある小屋を見る。
ヘスティは昨夜から彼女はこの中に籠っていた。というのも、
『この前のダンジョンで、いい魔石が手に入ったし、アナタの杖をもう一本、念のためのスペアとして作っておく』
と、俺の装備を作ってくれているからだ。
ありがたい話だが、昨夜からずっと、一歩たりとも外に出てきていない。
「よっぽど集中しているのだろうし、邪魔はしたくないんだよな」
「そうか……いつ終わるか、わかるだろうか」
「さあな。杖づくりって一般的にどれくらいかかるんだ?」
「あー、普通の職人であれば、一か月から二か月は、普通にかかるな」
「マジか」
ヘスティは二、三日で仕上げてるんだけど。
どういう速度でやっているんだ、あの竜王は。
「速度特化の職人でも、一週間はかかるのだが、ヘスティ殿は三日で終わらせられるんだな……。アナタの関係者は、超絶的な性能のものが多すぎるな……」
「いや、俺の関係者だからってわけじゃないだろうよ」
純粋にヘスティの腕がすごいだけで、俺は一切関係ないよ、と小屋を眺めていたら、
「ん……!」
ヘスティがドアを開けてよろよろと出てきた。
「おう、お疲れヘスティ」
「大丈夫。体力はあと三割残っている。しばらく休んで温泉に入って眠れば、平気。スペアも、ほぼ完成。あとで、渡すね?」
「ああ、ありがとうよ。……で、ディアネイア。ヘスティは出てきたんだが、結構疲れているみたいでな。用件ってのは手早く終わりそうか?」
ディアネイアに尋ねると、彼女はこくこく、とすぐにうなづいた。
「あ、ああ、すぐに終わる。ちょっとした知らせとお願いをしにきたんだ。いいかな、ヘスティ殿」
「ん? なに?」
「実はな、先ほど、湖の竜王が私の城にな――」
と、そこまでディアネイアが言った瞬間、
「ぷはっ、な、なにここ! すんごい魔力が壁になってるんだけど、どうなってるの!?」
森の地面にあった水たまりから、青い髪をした少女が飛び出してきた。
「うん? なんだ、どうなってるんだ、この子」
水たまりは明らかに、人が潜っていられるような深さをしていないんだけど。
一体どこから出てきたんだ、と俺は首をかしげながらディアネイアと、ヘスティに聞こうとしたのだが、
「ま、マナリル殿? ど、どうしてここに」
「マナ? もう、このあたりについていたんだ」
彼女たちは、どうやら青い髪の子の事をしっているようだった。
「あっ、ヘスティ。それにディアネイアも! こんなすごい場所で何をしているのよ」
さらに青い髪の子も、二人を知っているようだ。
「い、いやまあ、話を色々と。というか、マナ殿こそどうして」
「私はライブ前に周囲を見ておこうと思って、水脈をたどって移動してきたのだけれど、あまりにも異常で強大な魔力を感じたものだから、来てみたらここにたどり着いたの」
そう言ったマナリルという青い髪の少女は、ふいに俺のほうを見た。そして、
「ええと、魔力の感じを考えるに、貴方がこの場所の主さんなのかしら? 勝手にお邪魔してごめんなさいね」
「いや、別に構わないんだが。あんたは一体誰なんだ?」
「ああ、まずは名乗らなければだめよね。私はマナリル・セイレーン。湖底神殿の歌巫女にして、湖の竜王なの。よろしくね」
マナリルはそう言って、会釈をした。
そうか、この子も竜王なのか。
でも、そんな子がどうしてここに、と思った直後、森のほうから、どすどすと走る音が聞こえた。
「ご、ごめんねー。ダイチさんー、ディアネイアさんー。マナの足が速くて、止められなかった。湖の竜王だからって、水に同化できるのは、反則だよー」
ラミュロスだ。彼女が走ってきていた。
……どうにも今日は客が多いな。
すでに三人も集まってきている。
そのほとんどが竜王だし、竜王会議の二回戦か何かが始めるつもりなのか。
まあ、なんでもいいけどさ。
「こんな状態で立ち話もなんだ。椅子もあるし、とりあえず座ろうぜ。そのうえで事情を聞かせてくれ。特に、ディアネイア。状況に一番詳しそうだから、解説頼むわ」
「う、うむ、了解だ」
そして、俺の庭で、再び竜王と姫の会談が開催されることになった。





