―side プロシア― 竜王がらみのひと悶着
夜。
ディアネイアはラミュロスと共に執務室にいた。
「今日も付き合わせてしまってすまないな、ラミュロス殿」
「ううん、大丈夫だよー。湖の竜王が来るまで、待つって言ったのは、ボクだし。それにここにいると美味しいご飯を沢山食べれるしねー」
「ふむ、そう言って頂けると、調理場のモノたちも喜ぶだろうな」
正直、彼女の消費量はハンパではないのだが、料理長たちは『作りがいがありますぜ!』とやる気を出していたので良いだろう。
実際、ラミュロスが来てから料理の質が上がったと騎士や大臣たちも言っていたし。向上するのは良いことだ。
……金銭は掛かるがな。
ただまあ、今の今までダイチに儲けさせて貰っていた蓄えがあるので、全く問題なかったりする。
食料も最近の豊作のお陰で、余り気味な部分もあったし。
こういう時も彼の力で助かっているのだから、なんとも有難い話だと思っていると、
「姫さま。お客様御一行がお見えになられました」
ドアの向こうから、騎士団長の声が聞こえた。そして、
「あ、来たみたいだね」
ラミュロスもしっかし反応している。どうやら噂の竜王が到着したらしい。
話を聞いた限りでは、竜王の中でも独特な性格をしていると聞いた。だから気を引き締めるために深呼吸をしてから、
「では、通してくれ」
返事をすると、ドアがゆっくりと開いた。
そして、その向こうから、
「こんばんは! ここがプロシアのお城でいいのよね?!」
背丈の小さな、青い髪をした少女が、元気の良い挨拶と共に入ってきた。
あまりの意気の良さにディアネイアは面を食らってしまったが、すぐに持ち直して立ち上がる。
「そうだ。ここがプロシアの城だ。ええと……水の竜王の、マナリル・セイレーンでよろしいかな」
「ええ! 気軽にマナって呼んでね! そういう貴女はディアネイア? ラミュロスから色々聞いているわ! よろしくね!」
マナは威勢よく握手を求めてくる。
「あ、ああ、よろしく」
その手を掴むと、冷たい感触がまずきた。
水の竜王だからだろうか。かなりしっとりもしている。
ただ、柔らかながらしっかりした力が帰って来た。そして、
「うん、ヒトにしては良い手ね。柔らかくて女の子の手だけど、苦労している感触がするわ」
マナはディアネイアの手を見ながらそんな事を言ってきた。
「あ、はは、どうもありがとうだ、マナ殿。――所で気になったのだが、その背後にいるのは何だろうか?」
ディアネイアの視線の先には、小さな水色の球体がいくつも並んで浮いていた。
水色の翼をもった球はその頭上に何やら箱のようなモノを置いている。
「ああ、この子たち? 水辺と湖底神殿の精霊たちよ。気にしないで。楽器を運んでくれているの」
「……楽器?」
あの箱の中身は楽器なのか。
しかし、一体どうしてそんなものを持ってきたのだろうか。
「ええ、そうよ。私は音とブレスの力で水を操るから、こういったものは必要不可欠なの。ね、皆」
マナがそう言うと、青い球体達は拍手するように羽をパタパタさせて音を出した。
「なるほど。つまり、これは貴方の武装でもあるわけか」
「戦いに来たわけではないけれどね。むしろ水に異常が出そうだったのを治めに来たのが大きいし」
「うむ? そうだったのか?」
聞いた限りでは、他の竜王がこちらに集まっているから来た、という話だった筈だけれども。
「……ま、それもあるけどね。一番は、治水よ。最近は湖の方に魔力のこもった水が流れ込んで来ていて、何かしらの異常があるんじゃないかと思ってきたの」
「そ、そうだったのか」
ちょっと思い当たる節があるぞ、とディアネイアが頭で対応を考えていると、更にマナは続けて喋って来た。
「その件で、この街と近辺で歌唱ライブをやらせて貰うことになったのだけれど、その話は通っているのよね? だとすると、私は、どこでやればいいのかしら?」
「へ?」
「うん?」
ディアネイアとマナはお互いに見合って首を傾げ、その後で、揃ってラミュロスを見た。
「……御免なさい。それ、今思い出した」
どうにも想像以上の事をやろうとする竜王が、来てしまったようだ。





