141.溢れだすアイデア
水脈からの帰り道。
俺たちは洞窟を歩いて登っていったのだが、
「なんだこいつ?」
その道をふさぐ、ひとつの青く透き通った人型の物体に出くわした。
大きさは二メートルほどで、中々にゴツイ体を持っている。
それが、ノシノシとこちらに近寄ってきているのだけれど、一体何だろう。
「いや、これは……ウォーターゴーレム。魔石をコアにして、水を固形化している」
「へえ、ゴーレムって水でも作れるんだな」
今までは岩とか土とか木とか、固形物を素材にした奴らしか見たことが無かったから、新感覚だ。
スライムとはまた別っぽいしな。
「ん、固形のゴーレムよりも魔力量も豊富で強力。だから、割と脅威。苦手としている冒険者も多い」
「なんでそんなのがウチの地下にいるんだ」
「水資源が増えたから、かな。性質は、野生のゴーレムと一緒で。魔力を求めて、取り込もうとしてくる。アナタに惹かれてるみたい」
ああ、だから俺に向かって近寄ってきているのか。
動きはのろいけど、手を伸ばしているし。
「これは、倒した方が良いんだろうけど、倒し方ってあるのか?」
ヘスティに聞くと彼女は首を傾げて、んーと悩んでから、
「こういうのは中心のコアを抜けば良いと思う」
「そうか」
じゃあ、あの胸元にある、水色の石を狙えばいいのか。
ただ、今持ち合わせているのはウッドアーマーの腕部だけなので、とりあえ片方を投げつけておけばいいか。
俺は片腕分のウッドアーマーの腕を、もぎ取って、振りかぶる。
「あ、水とはいえ、かなりの魔力濃度で出来てるから、物理的にも堅い筈――」
「え?」
そのまま、ヘスティの言葉を聞き終える前に投げつけてしまった。
ウッドアーマーの補助と、魔力の上乗せによって強化された腕は、矢のようにすっとび、ウォーターゴーレムに直撃する。
その体からは、ゴリゴリっと確かに水とは思えない堅そうな音が聞こえ、そして、
「――!」
ドッ、という貫通音と共に、腕部の矢じりはコアに突き刺さった。そして、そのまま背後に突きぬけて、洞窟の壁面に磔にした。
コアが抜けた水の体は、そのままパシャッと崩れ落ちた。
どうやら普通の水になってしまったようだ。
「しかし、意外といけるもんだな」
「……普通は、堅いと思ってね」
ヘスティから目をそらされてしまった。うん、まあ、水にあるまじき堅さなのは良く分かったよ。そう思っていたら、
「主様ー。このコア、どうします?」
サクラがコアとウッドアーマーの腕を壁からはがして持ってきていた。
「そうだなあ。このコアを参考にすれば、俺も固形物以外でゴーレムを作れるってことだよな?」
「はい。主様がはっきりイメージ出来るものならば、可能ですよ」
そうか。今までは水のゴーレムなんて発想の外にあったけれども、一度見てしまえばある程度はイメージできるな。
「よし、じゃあ持ち帰ってちょっと作ってみるか」
「はい、了解です!」
樹木のゴーレムよりは難しいかもしれないが、作ってみる価値はあるだろう。
「……ん? また新しい戦力を増やすの?」
「いや、戦力っていうか、庭に水を撒くゴーレムをコイツにしてもいいかなって」
気温が上がってきて、庭に打ち水する機会も増えてくるだろう。
水で出来ているなら、歩くだけで地面に水をしみこませることができそうだし。
自動水撒き機としても便利じゃないかと思ったんだ。
今は普通のゴーレムがジョウロを手に水撒きしてるしな。
「強力なゴーレムをそういう使い方する人、初めて見た」
実は、スプリンクラーでも作ろうと思ったんだけど、仕組みが良く分からなかったのもある。
なんだかんだゴーレムは作り慣れているから楽だしな。
それでやってみよう。
「いやあ、ダンジョンってのはアイデアが転がってていいな」
「ダンジョンでの脅威をアイデア扱いするのは、アナタだけだと思うけどね……」
ヘスティの諦めたような視線を受けてしまったけれども、とりあえず、ゴーレム改良の方向性がまた一つ増えた。
帰ったら工作と実験タイムだな。





