139.新設備の実用
夕方。
湧水を利用する施設を作っていると、ヘスティが戻ってきた。
「ただいま」
「おう、お疲れさん」
昨日の夜から今までずっと喋ってきたのか。若干、疲れの色が顔に見える。
額にも汗が浮かんでいるし。
情報提供するだけ、とは言っていたけど、意外と重労働だったようだ。
「ん、まあ、話すのは楽だったんだけど、色々あって頭と体が熱くなってる、だけ。ラミュロスから情報を絞るだけ絞って、あとはディアネイアに預けてきたから、平気。……あとはもう知らない」
ヘスティにしては珍しく、最後の方が投げやりだ。
よっぽど手こずったんだろうなあ、と思っていると、ヘスティは俺の手元に視線を集中させた。
「というか、アナタは、また妙なもの作ってるけど……。それは、なに? 魔力の泉?」
「いや、ただの水飲み場だけど、魔力の泉……ってなんだ?」
出てくる水を上手く流す為の筒と、それをためる槽、そして流す場所を作っているだけなんだけど。泉に見えるんだろうか。
「いや、だってその水、浄化ポーションくらいの魔力が湧いてるから」
「え?」
「普通の貯水場所じゃない、と思った。浴びるだけで体か、心を修復させる場所かも、って」
なるほど。サクラは、ウチで飲んでる水道水よりも魔力が薄いとか何とかいってたんだけど。
意外と、豊潤だったらしいな。
「でも、いいアイデアだよ、ヘスティ」
これだけ出てくる水を、飲料だけに使うっていうのもなんだと思っていたんだ。
設備を増やして、小さな水風呂を作るのもアリかもしれない。
そう思って、俺は樹木を操り、浴槽を一つ組み立てていく。
ちょっと小さめな水風呂なのでゴーレムを使わなくても、ウッドアーマーだけで十分作れるな。
「ん、何か閃いたのなら、良かった」
「おう。この後、よければ試してくれ。水風呂の温度も確かめたいしな」
冷た過ぎれば逆に体に悪いので、温泉を足して調整するつもりだ。
「分かった。……そうそう、水と言えば、武装都市のある方の湖から、竜王が来るかもしれない」
「へえ、また竜王が来るのか」
よく集まるもんだな。
俺としては、迷惑をかけてこないなら、誰が来てもいいんだけどさ。
「……アンネとか、カレンとか、人に付きまとうタイプではないから、多分、迷惑は掛からない、筈」
「ヘスティにしては歯切れが悪いな」
言うと、ヘスティは遠くを見ながら、頬を掻いた。
「そこは、しばらく会ってないから。竜は、基本的に性格が変わる様な精神構造をしていないけれど、あくまで基本的だから、ね」
「へえ、竜の性格って変わり難いのか」
「そう。けれど、何かしらの事件、事情があれば変わるから。確定的には、言えないの」
「そっか。でも教えてくれてありがとうよ、ヘスティ」
「気にしない。ここまで来るか分からないけれども。街には来るみたいだから、伝えただけ」
相変わらず、ヘスティの情報量は凄い。
明日か明後日か、疲れが抜けたら色々教えてもらうかね、と思っている間に、
「――っと、出来てたか」
浴槽が組み上がった。半身浴が出来るくらいの高さのものだ。
ながら作業でも、魔法を併用すると簡単に組み上がってくれるので助かる。
俺はそこに、湧水を流し続ける樹木の水道管を一つ、付ける。
すると、浴槽の中には冷たい水が静かに溜まっていく。
「よし、これで水風呂も完成っと。――ヘスティ、入ってみるか? ひと汗流すのには丁度いいぞ?」
「いいの? なら、お言葉に甘えて」
そう言って服を脱ぐと、ヘスティはちゃぽんと足先から水の中に入った。
「……ん、冷たくて、気持ちいい」
そして、気持ちよさそうに表情を緩めている。
どうやら良い感じの深さと温度になっているようだ。
……俺も、夕飯前に温泉と水風呂で汗を流すかね。
そうして、俺たちは新しい設備を楽しんで行った。





