―side ヘスティ&ディアネイア&ラミュロス― 三人寄れば新情報
夜。
ディアネイアは、執務室にティーテーブルを持ちこんで、席に坐していた。
「ヘスティ殿。ラミュロス殿。夜遅くに来てもらってすまないな」
相席しているのは二人の竜王だ。
「気にしない。来るといったのは我たち」
「そうだよー。ボクも人間さんに迷惑をかけた分を取り戻したいだけだしねー」
彼女たちは用意した菓子をつまんでくつろぎながらそう言ってくる。
「本当に、貴方達から情報を貰えるのは助かる」
夕方から夜にかけて、ダンジョン内部を探索した情報や、ダンジョンマスターの強度などの知識もえられた。
お陰で、街の防衛はとてもやりやすくなっている。
「小規模なダンジョンとはいえ、放置しておくと、モンスターの温床になるからな。こうやって拡大率や、内部の様子を知れて良かったよ」
ヘスティがまとめてくれる情報はとても分かりやすい。だから仕事も早く終わってとても有難かった。
「ん、まあ、それくらいしか、我が言えることはないから、ね。ダンジョンマスターに関しては、殆んど、彼が倒してしまったから」
「あ、あはは、相当なモノだったらしいな、ダイチ殿のダンジョンマスター討伐は」
「あれは……うん。ちょっと、感じた事がないレベルの速度で、魔力の反応が薄くなって、潰れていったから、ビックリしたくらい」
ディアネイアとしては、自分たちの戦闘で手いっぱいだったので、感じている余裕がなかったのだが、
……こんど余裕がある時は見てみたいな。
竜王である彼女がこれだけ驚く戦闘をこの目に収めたい欲が出てきてしまう。だが、今は仕事中なので、その私欲は一旦封印することにして、
「それで、他に異常らしきものは無かっただろうか?」
「我は、無かったかな。ラミュロスはどう? 何か喋ることがある? 竜王会議の事でもいいけど」
「あ、うん、言えることはもうちょっとあるよ、ヘスティ。ディアネイアさんー」
ヘスティの言葉にラミュロスはこくりと頷いて、
「竜王会議でも言い忘れていたんだけど、湖の竜王が来るかもー」
さらっと、そう言った。
●
ディアネイアは思わず、自分の耳を疑ってしまった。
「――んん?」
今、この竜王はなんと言ったんだ。
「えっと、また、新しい竜王が来るのか? この街に?」
「そうだよー。武装都市近くにある湖の、湖底神殿に住んでいる子が来るみたい」
あっさり肯定された。竜王が来るのは確定のようだ。
それを聞いて、ヘスティの半目がラミュロスに向けられた。
「……何故、それを早く言わない」
「竜王会議で言おうとしてたんだけど、なんだかヘスティがいないと、話すタイミングがつかめなくてね。後で伝えればいいかなって」
「……そういえば、我が運営をやっている時は、ラミュロスに話を振ることでどうにか情報をださせていたけど、アンネは、それをやっていなかったのか」
教えておけばよかった、と言いながら、ヘスティは肩をガックリ落とす。
「さっきもね。温泉に入っている時、一方的なテレパシーで伝えてきたから思い出したんだけど。『こっちに凄まじい魔力の持ち主が集まっているから、一週間以内に私も行く』って」
「そういうことは、早く、言わないと、駄目だって、いつも言ってる、だろう……!」
額に青筋をつけたヘスティは、その手でラミュロスの腕をむにっと掴んだ。
「御免ってー! 怒らないで、つねらないでよ、ヘスティー」
「まあまあ、落ち着いてくれ、二人とも」
ディアネイアが宥めると、一呼吸でヘスティが落ち着いた。
そして、ぽつりと言葉を落とした。
「あの子が、くるのか」
「そうだねえ、来ちゃうねえ」
「あの、二人の言葉を聞いていると、今回来られる竜王は、何かしら事情を抱えているのか?」
あまりノリ気でないというか、好ましくない様な言いぶりをしているけれども。
「事情があるというか、ボクたちと違って、あの子はかなり問題を起こすからね。ディアネイアさんも気をつけてね」
「え?」
「あの子は不思議ちゃんというか、大分価値観が違うからー。昔はちょっと怒って、街のお城を壊したこととか、あったからさー」
「ああ、そんな事も、あった、ね」
ラミュロスの言葉にヘスティも頷く。
それは、相当な問題児ではないだろうか。
「でも、多少、ずれてはいるけれど一応、まともな竜王の一人。問題を起こさないように、来たら我も言い含めておく」
「そ、そうか。それは有難いが……もう少し、その竜王の情報を尋ねてもいいだろうか。私もやれることはしておきたいのだ」
いつ、どのような感じで街に来るのかも分からないけれども、覚悟だけはしておきたいしな。
「ん、まあ、もう何十年も会ってないから、昔の情報でよければ、渡す」
「ボクもボクも。大した情報は持ってないけどねー」
「感謝する、ヘスティ殿、ラミュロス殿」
そうして、竜王との情報交換は夜中まで続いた。





