135.お弁当はいつもの場所で
「なるほど……。ダイチ殿は、自分の家の地下から、ここまで来たのだな」
「ああ、火をつけられないために、ダンジョンマスターを先に潰しておこうと思ってな」
ディアネイア達と遭遇して、ここまで来た事情を喋っていると、
「なんというか、ダイチ殿、助けてもらって、すまない。ありがとう」
そう言ってディアネイアは頭を下げてきた。だけど、
「いや、頭は下げなくていいよ。俺は助けた覚えは無いんだから」
ディアネイアはディアネイアたちで戦おうとしていた訳だし、むしろ獲物を横取りした感じに近いだろう。礼を言われる事ではない。
「そ、そうか……? だが、助かった事は事実だし、やはり、礼を言わせてほしいんだ」
「気にしなくていいんだけどなあ……」
呟きながらダンジョンマスターをシメて魔石にしていると、散らばっていた竜王たちが集まってきた。
最初に戻ってきたのはカレンだ。
「ただいま戻りました……っと、アテナ王女やディアネイアも来ていたのですか。お疲れ様です」
カレンは俺の隣でへたりこんでいたディアネイアとアテナに声をかけた。
「う、うん、朝早く出ていったと思ったら、ダイチお兄さんの所にいたんだね、カレン」
「はい、このようにダンジョンマスターを片付けていました」
と、カレンはひとつの大きな黒い魔石を片手にしていた。
「アテナもこちらにいるということは……戦いの見学ですか」
「うん。そうだよ。お姉さまに付いてきたの」
「ふむ、やはりダンジョンは人を育てるのに役立つ場所ですね」
と、カレンは頷きながら、俺の顔を見た。
「そして……ダイチ。先ほどから気になっていたのですが、それは、どうなっているのですか?」
「うん? どうなっているって、何が?」
「いえ、ダンジョンマスターの魔石が五個も紐付けされて転がっているのですが……」
ああ、なんだか干し柿を作っているような感じになっているな、これ。
見ても分からないか。
「今しがた、ダンジョンマスター倒して魔石にしたんだよ」
「そうでしたか……数秒で複数体の魔力の反応が消えたから疑問に思っていたのですが、やはりダイチがやったのですか……。私はこの通り一体だけで、ちょっと情けない結果に終わってしまいました」
そう言って項垂れるカレンの横から、今度はラミュロスとアンネが現れた。
「ボクも一体だったから、情けなくはないよ、カレンー」
「そうですよ、私なんかゼロですよ、カレン姉さま」
そして彼女らの背後から、微妙に疲れた表情のヘスティがよろよろと歩いてきた。
「我、二体、やった。けど、アンネがずっと、べったりくっついてくるから、別の意味で、疲れた……!」
と、彼女は、二つの黒い魔石を俺の方に持ってきて、腰を下ろした。
「引率お疲れ。ゆっくり休むといいぞ」
ヘスティに樹木の水筒から水を取りだして渡すと、こくこくと飲み始めた。
「ん、ありがとう。でも、気にしないで。我がやるって、言ったことだから。……それに、これで反応は、全部、消えたから、オッケー」
「そうか。なんつーか、早いうちに綺麗に片付いたな」
思いのほか手間が掛からなかったので、弁当を食べる前に終わってしまった。
「……いや、アナタが一気に五体とか倒さなければ、もうちょっとは時間が掛かったとは、思う、よ?」
「そうですねえ。ダイチ様の処理速度が一番、予想外だったというか、予想できる範囲を超えていたから、こんなに早く終わったのだと思います」
ヘスティたちは、転がった黒い魔石の数々をそんな事を言ってくる。
俺としても時間はかかるものだと思っていたんだけどさ。
「予想外とはいえ、早く終わったなら良いことか。――んじゃ、持って来た弁当は、上に戻って景色のいい所で食うかね」
魔石の光が綺麗だとはいえ、洞窟の中で食べる事もないだろうしな。そうしよう。
「ディアネイアたちはこれからどうするんだ?」
「あ、ああ、私たちはまだまだ調査があるから、それを続けようと思う。――その件で、出来ればそちらの竜王の方々からも情報を得たいのだが、今日の夜くらいに城の方へお呼びしてもいいだろうか?」
「だとよ。どうする?」
ヘスティたちに聞くと、彼女らは顔を見合わせ、頷いた。
「ん? 我たちの情報? 大丈夫だけど」
「よかった! では、夜の辺り、テレポートで迎えに行かせて貰うことにするよ」
「分かった」
どうやら、向こうは向こうで話がまとまったらしい。
そろそろころ合いだな。
「んじゃあ、また今度な」
「ああ、また。会いに行かせてくれ、ダイチ殿」
そして、ディアネイアと分かれた俺たちは、自宅の庭に戻ることにした。
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「ひゃ、ひゃっはー……や、やっぱり、旦那はスケールが違うな。だからこそ、憧れちまうんだが」
「おう……」
ダイチの後ろ姿を見てシャイニングヘッドの面々は感嘆の声を出す。
それを耳にしながら、ディアネイアはぽつりとつぶやく。
「はは、やっぱり私の力は、まだまだだな」
ディアネイアは両手を見下ろし、先ほどまで震えていたことを思い出す。
「お姉さま?」
「アテナ。今日の出来事で分かったと思うが、強敵との戦いは突然起きるもので、怖いものだ。そして、だからこそ、強くなる必要があるんだ」
「う、うん」
自分は強くなったつもりでいたが、まだまだ上がある。
遠くて見えないくらい、上が在る。
……憧れるあの人がいる場所は、とても遠い。
だからこそ、もっと頑張ろうと、ディアネイアは思うのだった。
ダンジョンの冒険(半日未満)は一旦終了ということで。





