134.ダンジョンのシメ方
ディアネイアの火力はダンジョンマスターを焼き尽くした。
ダンジョンマスターが焼けた場所には、黒い魔石だけがコロンと転がっていた。
それを見て、ディアネイアはようやく実感できた。
「かつては無理だったモノを、……倒せた」
ダイチという大きすぎる目標があるから、今まで強くなっていた感覚は無かった。
けれど、自分は少しは成長できているようだ、と握りこぶしを作っていると、
「す、凄い、凄いよお姉さま!」
「ヒャッハー! シャレにならねえ威力だぜ姫さん!」
背後からアテナと、シャイニングヘッドの面々は拍手をしながら歓声を上げてきた。
「はは、ありがとう皆。……だが、まだ調査は残っているから、気を抜かずに行こうじゃないか」
「おう!」
ダンジョンマスターを倒したことに少しだけ浮かれつつも、しかし気を引き締めてディアネイアは先に進もうと、一歩を踏んだ瞬間。
――ドンッ。
前方の横壁をぶち抜く音が目の前から響いた。
「へ?」
魔石で出来ている堅い壁が、簡単に壊れてしまった。
そして、壁をぶち抜いて現れたのは、巨大な黒い影。
「グオオオオオオオ!!」
先ほどよりも巨大なダンジョンマスターだった。先ほどのソレを中型とするなら、こっちは大型というべきか。
明らかにサイズに違いがあった。
「……っ、戦闘準備!」
それを見た瞬間、ディアネイアは足を止めて叫んだ。
シャイニングヘッドの面々も即座に防御態勢に入る。
「ヒャッハー、どんなモンスターでも五分おきには来るんだな、このダンジョンは!」
「リーダー。一応、退却の準備も整えておくぞ!」
「ヒャッハ、頼んだ。それで、さっきの魔法は、もう一発撃てそうか、姫さん?」
アッシュの問いかけにディアネイアは頷く。
《プロミネンス・デュオチャージ》であればニ、三発は余裕で撃てる。が、
「ああ、だが……一発では効かなさそうだな」
先ほどのダンジョンマスターですら、数秒耐えたのだ。
それ以上に大きく、更にはサーヴァントデモンを抱えた相手には、効き目が悪いだろう。
正直、かなり恐怖を感じる。
「だが、勝てない相手ではない筈だ……!」
「お姉さま……!?」
アテナも自分を見ている。安全は第一だが、だからといって、無様な姿は見せられない。
……逃げる手段も確保されているんだ。
限界まで魔力を振り絞れば、対等に戦える。
腹は決めた。
「シャイニングヘッドよ。もしも旗色が悪くなったら即座に退却してくれ。私もテレポートで逃げる」
「ひゃっは、了解だ」
「アンネ。約束は覚えているな?」
「う、うん! 危ないと思ったら即テレポートだよね! もちろん分かってるよ!」
退路も万全。ならば、憂う事は無い。
「それじゃあ……行くぞ!
と、ディアネイアが気合を入れて一歩を進んだ瞬間、
――ドガン!
ダンジョンマスターの後ろの壁が爆発した。
すさまじい音が響き、巨大な穴が開く。
洞窟内を衝撃と風が走り、辺りに土煙が舞う。
……こんな時に、また新手か!?
咄嗟に身構えたディアネイアは、その大穴を見た。
そこから出てきていたのは、
「拳……?」
巨大な樹木の拳だ。
「オオオ……!?」
それがダンジョンマスターの首を掴んでいた。
更に、拳を作る五指が伸び、ダンジョンマスターの首筋に太い樹木が巻き付いていく。
まるで首輪の用に引っ掛かった木の輪は、
「――!」
そのまま広がってサーヴァントデモンごと、ダンジョンマスターの全身を締め上げる。
幾ら暴れても、その樹木がはがされることはなかった。
「ひゃ、ひゃっはー、い、一体何が……」
「わ、分からん」
ディアネイアたちは戸惑いながら、締め上げられていくダンジョンマスターを見ていると、
「よし五体目」
土ぼこりの中から声がした。それは聞き覚えのある声で、
「物音が聞こえたと思ったらやっぱりいたか。ここら辺に集まっているとはな――って、ディアネイア? それに、シャイニングヘッドも。お前らも来てたんだな」
「だ、ダイチ殿!?」
ウッドアーマーを着込んだダイチが、三体のダンジョンマスターの首根っこを掴んだ状態で、そこにいた。
●
ダンジョンマスターの首をひっ捕まえながらディアネイアと出会った瞬間、アーマーの中でサクラが声をかけてきた。
「あ、どうやら、他の竜王の方々も終わったようですよ、主様。魔力を振るっている反応が収まりましたから」
「おお、そうか。んじゃ、とりあえず、他の奴らが来るまでに倒しておくか」
そこまで遠くに散らばったわけではないし、そろそろ戻ってくるだろう。
なんて思っていると、
「グオオ……!」
ダンジョンマスターが炎を生みだす準備を始めていた。
「っと、いかんいかん」
締め上げ方が足りなかったようだ。暴れながら攻撃しようとしてくる。
「確かヘスティがオススメの倒し方があるって言ってたからそれでやるか」
俺は樹木でダンジョンマスターの全身を改めて締め上げると、
「――よいしょっと!」
軽く浮かして、高速で地面にたたきつけた。それだけで、
「ッ……!?」
ダンジョンマスターの体は崩壊し、一個の魔石になった。
こうして、一撃で時間をかけずに倒すと魔石に傷がつかなくて、使い道が増えるらしい。
魚の神経ジメみたいなものかな、と聞いた時は思ったものだけど、上手くできて良かった。
「おー、ヘスティちゃんが言うにはかなり力加減が難しいとのことでしたが、お見事です、主様!」
「おう、この感覚を忘れないうちに、次もやっていこう」
そうしてダンジョンマスター達を締めて倒しながら、待つことにした。
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