-side ディアネイア- 確かな強化
ディアネイアたちは、洞窟の中にいた。
天井の高い洞窟内部は魔石の光に照らされて明るい。
それだけに彼女たちに襲いかかってくるモンスターの姿が良く見えた。
それらをディアネイアたちは次々に倒していた。
「ふう、五分に一回くらいのペースで出会うと、中々消耗するものだな」
と、汗を拭う彼女に、隣でスライムを叩きつぶしていたアッシュも同意する。
「ヒャッハー。出来たてのダンジョンなんてこんなものだから、そりゃ仕方ないぜ姫さん。ただ、もっとヤバイ所だと、何時間もぶっ通しで戦い続けなきゃいけない場所とかあるしな」
「それはそれで嫌だな。一斉に来てくれた方が、私としては火力で薙ぎ払えて良い気もするが。――っと、ファイアランス!」
話している最中に来たゴブリンを、ディアネイアは遠距離から焼き尽くす。
「ヒャッハー、やっぱり姫さんの火力はすげえな」
「まあ、この程度のモンスターくらいならば、楽に倒せるさ」
魔法一発で沈むなら、手間にもならない。
「これだと物量はあんまり意味がねえから、こういう連戦の方がきついわけか」
「そういうことだ。……まあ、単純にダンジョン探索に慣れていなくて、無駄に消耗している感はあるが」
シャイニングヘッドたちに比べると、自分の体力消耗は激しいような気もするし。
「ヒャッハー。そりゃ、ダンジョンは人の心も体も削るからな。こんなところでゆったりできるのは、大型モンスターか化け物くらいさ」
「まあ、そうか。人に優しいダンジョンなどそうそうないか」
壁から顔を出している魔石は明かりになるが、微量の魔力を発生させてきて、感覚を微妙に狂わせてくる。
「君たちがダンジョンに詳しくて助かったよ」
「ひゃっは、これが俺たちの専門分野だからな。そういう部分で負けてちゃおしまいだ。だから――テメエら! 俺たちが先行して引っ張ってくぞ!」
「おうよ、向かってくるモンスターは即座に処理だ――!」
シャイニングヘッドの面々は元気そうに走って進んで行く。
本当に彼らをやとっていて良かった、と思っていると、
「うおおおお! 一旦ストップ――!」
走っていった連中が急に止まった。
彼らの前方には、巨大な影があったからだ。
その影は、ディアネイア達には見覚えのあるもので、
「……ダンジョンマスター、か」
「グ・オオオオ……!」
いつぞやか、己をボコボコにしてきた、狂暴な敵の姿だ。
大きさは、数メートルとそこまででもないが、既にサーヴァントデモンを生みだし始めている。
その数は既に十体を越え、既に一個の群となっていた。
「やべえ……! 姫さんたちを守るぞ」
「おう!」
シャイニングヘッドは、真剣な表情でディアネイアたちの周りに付いた。
護衛の構えだ。
有難く、頼もしい冒険者だ、と思いながらも、
「すまんが、ちょっと前に出させてくれ」
「ひゃっは、姫さん!?」
ディアネイアは彼らの前に出た。
「お、お姉さま……な、何を!?」
背後からは、アテナの心配そうな声が聞こえてくるが、
「さっき、アテナが言っただろう? 戦い方を見たい、と」
ディアネイアは杖を振りかぶって、笑った。
以前は恐れに恐れたダンジョンマスターだが、今では全く怖くはなかった。
……ダイチ殿の力になれすぎてしまったかな。
笑みは苦笑に変わる。
「かつて敗北した時から、成長した証を見せてくれる……!」
そして杖に溜まるのは、莫大な魔力の炎。
渦を巻いて集まる灼熱の光は、やがて槍の形に変形する。
……あの時とは、違う。
自分は彼に憧れて強くなった。
そして憧れた以上、同じ無様を繰り返すわけにはいかない。だから、
「プロミネンス・デュオチャージ!」
気合を入れたディアネイアの振りおろしと共に、炎の槍は投擲された。
オレンジと青の混じった、巨大な炎の槍はそのまま一直線に突き進み、
「グオ……!?」
サーヴァントデモンごと、ダンジョンマスターを飲み込んだ。
ダンジョンマスターの耐久力は凄まじく、その炎の槍のなかで数秒、立って耐えたが、
「……!」
十秒後、その場で崩れ落ちた。
彼らを一歩も動かす事なく、そのまま焼きつくし、消滅させたのだった。





