131.竜の本音と谷と森のお茶会
竜の谷に一つの小屋が設けられている。
室内では、アンネとラミュロス、カレンといった竜王が座っていた。
昼間から集まるなり、三人で街々の動きや、国々の動きなど情報交換をするために喋り続けていたのだが、
「なんといいますか、これだけの人数が集まるのはとても良いことだと思うのですけれど、……運営役の姉上さまがいなくなると、正直困りますね」
アンネは頬を掻きながら周囲を見渡した。
いつもならば、ヘスティが率先して情報を纏めてくれたりしていたのだが、今回はいない。だからか、話のペースが上がらないことが多かった。
「あはは、運営っていつもヘスティがやってたんだ。数十年ぶりに竜王会議に来たけれど、そこは変わってないんだねー」
「え、そうなんですか?」
「そうだよー。百年以上、変わってないよ」
ラミュロスは気楽に笑い、カレンも同意するように頷いた。
「そうですね。今一番気をつけないといけない事、とか、今一番注目すべきこと、とかはヘスティが一番詳しかったので」
「なるほど……」
博識なヘスティ姉上さまは流石だ、とアンネは納得する。
その上でアンネは、彼女を見習おうと、話を率先して回す事にした。
「今一番、注目すべきこと、といえば、ダイチ様の存在でしょうかね」
「あー、うん、そうだねー。そこは外せないよ」
「ええ、全く同意です。彼の事は、どれだけ考えても損にはなりませんよ……!」
カレンが僅かに興奮しながら、声を発してくる。
彼女が強いものに引かれる体育会系であることはアンネも知っているので、その興奮ぶりは何となくわかるのだけれども
「そういえば、ダイチに挑まなかったんですね、カレン姉様は」
「ええ、まあ。あれだけ力の差があると、挑むというよりも申し込む、というほうが正しいでしょう。そして私は申し込ませて貰う側ですからね。ええ、根気よく頼み続けますよ」
「その気持ち、わかりますよ、カレン姉さま……!」
アンネは両手を握りしめて強く同意した。
自分も姉上さまに近づくまで何度も何度も頼みこんだなあ、とアンネは過去を懐かしむ。
「わあ……なんか変な気のあい方してるけど、ダイチさんに迷惑かけ過ぎちゃ駄目だよー。迷惑かけたボクが言うのもなんだけど」
「分かってますよ、ラミュロス様。……でも、ラミュロス様はダイチ様の前で気楽にいることが多いですけれど、よくあそこまで力を抜けますね」
ダイチの魔力は膨大だ。ヘスティなどは慣れているから、なんともないのだろうが、久しぶりに会う時は正直、体にビリビリとした衝撃が来るほどの力がある。
それが気持ちいいので、アンネは定期的に会いたいと思っているものの、気楽になることはできなかったりする。
「その辺り、ラミュロス様はすごいと思うんですけれど、なんでそんなふうになれるんです?」
「んー、それは当然だよ。ダイチさんは命の恩人だし、そもそも、ボクの力じゃ相手にならないからね。警戒するだけ意味がないから。多分、勝負しても五分もたずにやられちゃうし」
だから気楽でいられるんだよ、とラミュロスは笑う。
やはり、こういうセリフを聞くと、彼女も長く生きてきた竜王で、色々と割り切れる人なんだなあ、とアンネは思う。
……私もまだまだですから、勉強しないと。ダイチ様と姉上様に会って満足してるだけじゃ駄目ですね……!
二人の竜王を見て気合を入れ直したアンネは、ふとひとつの話を思い出した。
「そういえば、ダイチ様の件で思い出したのですが、ダイチ様の力で街と森の方の土壌が活発化してるのもご存じですか? 街の近くでも小さな魔石が程良く取れるようになったくらいに、強化されたみたいです」
「へえ、そうだったのですか。魔石があるということは、簡易ダンジョンにすることも出来るわけで……アテナ王女の教育にはいい場所が出来たかも知れませんね」
カレンは小さく頷きながら、考え始めた。
「きょ、教育熱心ですね、カレン姉さまは」
「それはもう。きちんと一人前の戦士に育てるという約束でしたからね。ダイチのお陰でその約束に一歩近づけましたよ。本当に有難い」
アンネとしても、道具作りに魔石や魔力の含まれた土というのは大事なので、とても助かっていたりする。ただ、
「それに関係あるのか、あるいは、別の事情があるのか、森の竜たちが変な挙動を見せているようなんですよね」
「あーそういえば、ここに来る途中、理性を無くして森に寝床を作ってしまった竜を見たよー。確かに奇妙な感じがしたねー」
ラミュロスもその傾向を感じたらしい。
「……この辺りのお話を、ダイチにお伝えした方がいいでしょうかね?」
「ダイチさんに? んー、そうだねえ。迷惑をかけないように、情報を伝えた方がいいかもしれないねえ」
「そうですね。では、ダイチ様と姉上さまの下へ向かいましょうか」
そして竜王たちは動きだす。
●
日が落ちる前に、竜王たちは揃って我が家にやってきた。
「来てもいいとは言ったけど、随分と早く来たな」
「あはは、す、すみません。こんな大勢で」
頬に汗をかきながら、アンネはぺこぺこと謝ってくる。その後ろからは、
「貴方が眠る前に来れて良かったですよ、ダイチ! お話したいことが一杯あるんです」
「ダイチさーん。久しぶりー。また温泉に入らせてー」
やけに気合が入った目をしたのと、気合が全く入ってない竜王も来た。
本当にバラバラな性格の連中だが、
「まあ、いいよ。リンゴが余ったから焼いたり蒸したりして、その味見役が欲しかった所だ。お茶にするか」
「わーい」
「本当にすみません、ダイチ様。助かります……」
「ありがたく頂きます!」
俺はお茶を飲みながら竜王たちと話をすることにした。





