-side ディアネイア- 竜王の脅威と成長
ディアネイアは、徐々に騒がしくなりつつある執務室にいた。
執務室の内部には、騎士団長含め、数人の騎士が緊張した面持ちで立っている。
その中で、机に置かれた何枚もの書類を見てから、ディアネイアは声を上げた。
「さて、竜王たちが森の向こうの谷に集まるとカレンから聞いたので、皆には集まってもらったわけだが、……街の方に異常はあったか?」
「い、いえ、特にはありません。全くもって、平常通りです」
若い騎士は、僅かに狼狽しながらも、報告をしてきた。
……やはり、竜王が集まっているという事態が怖いのだろうな
気持ちは分からないでもない。
ディアネイアはカレンやアンネを知っているし、竜王会議について内情を直接聞かされているけれども、それでも恐怖はある。
けれど、それを表に出す事は無い。
不安はあるが、それでも怯えずに動きを取ることが出来る。
「人狼の情報屋との連絡術式は繋がっているのだよな?」
「はい! きっちりと繋がっていて、竜の谷に異常があればすぐに伝達してくるように依頼しております」
森に住んでいる人狼達には、情報関係で仕事を頼むことが増えていた。
街にいる冒険者や騎士よりも、彼らの方が森近辺に付いて詳しいので、とても助かっていたりする。
「よし、ならば騎士団は待機。平原や街の周辺のモンスターが奇妙な行動を起こしていたら即座に対処すること」
「はっ」
騎士団の動きはこれで問題はないだろう。
ただ、もしも、ということもある。だから、
「騎士団長。冒険者たちにもすぐに出動できるように連絡を頼む」
「了解です。シャイニングヘッドの方々にも、お話を通しておきます」
とりあえず、これで人員の確保なども出来た。
あとは問題が起きた時の対処法を一つ一つ用意しておくだけだ、とディアネイアは手元の書類を見ながら考えていく。
すると、若手騎士たちは、堂々と指示するディアネイアに羨望のまなざしを向けていく。
「すげえ……落ち着いているよ、姫さま……」
「結構な状況なのに、ハンパねえな……」
その声が、ディアネイアの耳にも聞こえてくるが、どうにもこそばゆい。
……なにせ、ダイチ殿と出会えて無かったら、私だってこんな態度はとれなかったんだから。
一昔前の自分だったら大慌てだった筈だ。
相当にうろたえていた記憶もあるし、その時に比べたら少しくらい成長している。
だから堂々とするくらいの気合は当然だと思いながら、彼女は騎士団との会話を続けていく。
「さて、他に緊急的な報告はあるかな?」
「あとは……そうですね。竜王が集まっているからか、森から平原の方に向けて、モンスターがボロボロになりながら吹っ飛んでいる、という現象が起きていますね。街の被害はゼロですが、正直異常事態かと」
騎士の報告に対し、ディアネイアは騎士団長と見合い、そして頷きあった。
「あー……それは気にする必要は無いぞ」
「よろしいのですか?」
「ああ。その現象は今だから起きている訳じゃないだろうからな」
そもそも、気にした所で自分たちでどうこう出来る問題ではない。
「はっ、了解しました!」
ディアネイアの指示に、騎士は礼をして下がっていく。
そして、他に、報告するモノはいないようだ。
「よし、では、竜の谷の状況には注意すること。私たちは私たちにできる最善をなそう」
「はっ!」
そして、騎士たちは執務室から飛び出していく。
「何事もなければいいが、……やれることはやっていくか」
呟きながらディアネイアも外に出る準備をしていくのだった。





