129.竜王が集まる土地でゆったり
アンネが去った後、俺はゴーレムを作り上げていた。
「よし、造形はこんなものかな」
意外といかつい顔と体になってしまったが、空中からくる邪魔者を威嚇するのには丁度いい。これでうまく追い払う事が出来るだろう、と自作のゴーレムをポンポンと叩いていると、
「ただいま。相変わらず強そうなゴーレム、出来てるね」
ヘスティが戻ってきた。
「おう、お帰り。街はどうだった?」
「ん、いつも通り……というには、まだ落ち着きが足りなかった。祭りの後で、にぎやかなの変わってなかったから、工房の材料を買ってくるのに、時間、掛かった」
そう言って、彼女は担いでいる袋を下ろした。
その中には、布や液体の入った瓶などが入っている。また何かしら作るんだろうな。
「出来たら、アナタに見せるから、よければ使って」
「おう、ありがとうよ。――っと、そうだ。さっきアンネが来たぞ」
アンネ、という単語を聞いて、ヘスティは、そっと俺の後ろに隠れた。
そしてキョロキョロと周りを見始めた。
「……どこ?」
「いや、今はいないよ。竜の谷に用があるんだと。なんでも竜王が集まるってことらしいが」
言うと、ヘスティは何かに気づいたようにハッとして、納得したように頷いた。
「ああ……竜王会議。そういえば、そんな時期だった」
「竜王会議? なんだそりゃ」
聞いた感じでは、なんだか穏やかじゃなさそうな単語だけれども。
「まあ、穏やかじゃないこともあるけれど、今回は穏やか、だと思う。何十年かごとに近くにいる竜王が、適当な場所に集まってお話しするだけ、だから」
「へー、なんでまたそんな集まりを」
「竜王は強い分、情報収集を怠る癖があるから。長く生きていればいるほど、そうなる傾向にある。それはまずいから、我と、もう一人の竜王が提唱した」
ヘスティは懐かしそうな口ぶりで言った。
「そうなのか。じゃあ、ヘスティも参加するのか?」
「ん? 我は、しないよ? 今の我、正確には、竜王じゃないから。アナタに負けた時点で、あの谷における王の全権は、アナタにあるようなものだから、ね」
「え、そうだったの」
そういえば、アンネにも支配者だなんだって言われたけれど、そんな事になっていたのか。
「あれ、気付かなかったの? アナタは、あそこの竜を自由に、使えるよ?」
「いや、使ってもいい言われてもな」
使い道なんて考えてないぞ。
……俺は全権とか別にいらないんだけどなあ。
貰えるものは貰っておく主義だけどさ。
面倒事を起こすなって命令はさせてもらったけれど、それくらいだし。他に使い方なんてあるのか。
「……移動手段、くらいか?」
「まあ、移動手段とかでも使えるとは思うけれど、一般的に、大勢の竜で移動すると、周囲にビックリされる、とは思う。我も一回やったけど、結構、威圧感、あるからね」
ヘスティは頬をかきながら、言ってきた。
ううむ、そんなものかね。
「とりあえず、持っておいて損は無い、とは思うよ」
「そうか。じゃあ、何かしら都合とタイミングが合えば利用させて貰うかね」
「ん、それがいい」
と、俺とヘスティが会話していると、
「主様ー、ヘスティちゃんー、お昼が出来ましたよー」
本宅の方からサクラが声をかけてきた。
昼飯が出来たようだ。それを知った直後、ぐうとヘスティの腹が鳴った。
「お腹、減った、かな?」
「だから疑問形はやめろって。街まで歩いたから減ったんだろ」
俺も朝からゴーレムを作っていて腹が減ってるし、丁度いいや。
岩山をいくつか挟んだ土地ではなんだかすごい会議が行われているようだけど、
「ま、俺たちはのんびり飯でも食っておこうぜ」
「ん、のんびり、する」
そうして、俺たちは昼飯とお茶の時間をゆったりと楽しんだ。





